文と絵 山口高弘

 週末の喫茶店の中。レジから長い列が入口まで続いています。コーヒーの香りの向こうから、クリスマスのBGMが少しだけ聞こえる。僕は列に並んでいました。窓から見える大きな駐車場は、ひっきりなしに車が出入りしています。街路樹が枯れている。年末か…。この前も年末だった気がするな。早かったな、今年も。
 手元のスマホでニュース記事を読んでいて、あ、と思い出しました。そういえば、『平成最後の』年末です。それにしては、みんな落ち着いている。列の前や後ろの若い人を眺めました。「新しい元号は何だろう?」「平成生まれなんてジジくさいかな」そんな雑談は、今のところ聞こえてこない。
 あの『平成』という文字がテレビの向こうで掲げられてから、もう三十年が経ったのです。映画がCGばかりになって、何もかもがパソコンで繋がって、流行は飛ぶように過ぎて消えて、大きな事件や天災が何度も起きて。いつしか『変わる』ということに、誰もが慣れてしまったのでしょう。
 「平成が終わる頃は、車が空を飛んでいるかもしれないよ」祖父が晩酌をしながら、小さい僕に笑いかけたのを思い出しました。おじいちゃん、車は空を飛ばなかったよ。その代わり、世界と一瞬で繋がれるようになった。携帯電話にテレビもパソコンも音楽もゲームも入ったもんだから、みんな掌の画面に夢中で、うつむいて歩いているよ…。
 僕の番が来て、コーヒーを注文しました。店員さんは早送りをしているような手つきで忙しく動いています。外の駐車場から、苛立った大きなクラクションの音がしました。何もかも便利で早くなったけれど、すっかり慌ただしくなった。次の時代はどうか安らかで、『平静』でありますように。

☆山口高弘 1981年市原生まれ。
小学4年秋~1年半、毎週、千葉日報紙上で父の随筆イラストを担当し、本紙では97年3月~イラストやエッセイを不定期連載。

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