アオバヅク鳴く工房に土こねる2人~夢楽工房主宰 陶芸家・齊藤登男 さん・小原由紀子 さん~【睦沢町】

【写真】工房の庭にて。小原さん(左)、齊藤さん

 

 睦沢町下之郷に2人の陶芸家が住んでいる。『夢楽工房』を共同で主宰する齊藤登男(のぶお)さんと小原(おはら)由紀子さんだ。2人は自然の中に暮らし、多くの作品を作り出してきた。工房の庭には、毎年アオバヅクが産卵と子育てにやって来る。ほかにも猫や鶏、ヘビにカエル、カワセミにジョウビタキなど、庭の生きものたちが2人の作品のモチーフとなっている。

2人の陶芸家の出会い

左・陶とアオバヅクのヒナ(齊藤さん撮影)、右・染付アオバヅク円形ペンダント(小原さん作)

 齊藤さんは山形県の生まれ。「学校嫌い」だったという齊藤さんは、中学を卒業し、1964年に上京した。東京オリンピックに向けた突貫工事など建築現場を渡り歩き、現場と現場の合間には山形で魚釣りや山菜採りをする「風来坊」を自認していた。齊藤さんが陶芸と出会ったのは、勝浦市のゴルフ場建設現場で働いていた24歳の時のことだ。市原市の洋画家の下で土練りを一から教わった。「これがやりたかった事だ」と、建築現場でのアルバイトを続けながら、1976年、勝浦に『夢成窯』を築いた。

 小原さんは中国青島生まれ。1歳半で第2次世界大戦が終戦、家族で日本に引き揚げた。絵を描くことが好きだった小原さんは、武蔵野美術大学で油絵を学ぶ。卒業後は東京都小平市で絵画教室を開き、30代半ばで陶芸の先生に師事した。「昔から焼物が好きだった」という小原さんは、1985年に母の故郷である睦沢町への転居を機に、活動の軸足を陶芸へと移した。自宅敷地内の竹やぶを切り開くなど自力で窯を製作したが、うまくいかない。困っていたところへ知人に紹介されたのが、齊藤さんだった。その時の齊藤さんの印象は、「すごい髭もじゃで縄文人だと思った」と、小原さん。教わりながら窯を一から作り直し、『由楽窯』と名付けた。

左・自然釉窓抜花器、右・バリウムマット釉コーヒーカップ(齊藤さん作)

 1992年、齊藤さんと小原さんは共同で『夢楽工房』を開く。個展や展示会などを開催しながら、陶芸教室と絵画教室で工房はにぎやかに。1994年には、陶芸教室に通っていたコロンビア大使館職員との縁で、現地の地場産業育成のため、2人してコロンビアで陶芸を教えた。「2年と言われたけど、とても無理なので2カ月。コロンビアは土が豊富でうらやましいくらい。標高が高くて走るとハーハーいったけど、人はいいし、お酒もあるし、楽しかった」と、2人は振り返る。

素朴さと華やかさ

 燃料が薪の薪窯は、作品を置く場所によって出来上がりにむらがある。「傑作もあれば失敗作もある。それがおもしろい」と齊藤さんは言う。齊藤さんの作品は、どっしりとして、素朴。湯吞みやコーヒーカップを手にした人の多くが「手に吸い付くよう」と感想を漏らす。小原さんは、「特別にしゃれたものではないし普通のものだけど、手に馴染みやすく、使っていて安心する」と表現する。小原さんの作品は、繊細でいて、華やか。確かな観察眼とデッサン力で器に描かれた動植物は生き生きと、猫の置物はどこから見ても猫らしい表情を見せる。ペンダントやストラップ、箸置きなどの小物も愛くるしい。ある家では10個あった猫の箸置きが、来客の度にもらわれていき、2個だけになってしまったとか。

左・愛猫のハナ、右・斑猫(小原さん作)

 睦沢町立歴史民俗資料館・元館長の久野一郎さんは、2014年の特別展『睦沢町の芸術家』の企画で、初めて齊藤さん・小原さんの作品に出会った。「ほれこんでしまった」と、久野さん。2人の作品に共通する魅力は、「作品に対する誠実さ。やさしく生活に根差したものであること」。「作品が使う人を向いている」と話すのは、同館学芸員の山口文さん。2022年の企画展『用の美─日本人の日常再発見』で2人の作品を取り上げた。同年11月には『陶芸家小原由紀子絵画展』も開催。小原さんは、齊藤さんや猫たちとの日常を描いた絵や、世相を斬る風刺画を描きためている。齊藤さんは中学の頃から写真を撮り続けている。アオバヅクやカワセミが自作の陶器にちょんと止まった一瞬を逃さない。山口さんは、「陶芸、絵画、風刺画、写真の多様な作品を通じて、夢楽工房の2人の生き方をたどる展示会を実現したい」と語る。

焼締鶏形花器:左・齊藤さん作、右・小原さん作

 冬の夢楽工房、室内では薪ストーブの薪がパチパチとはぜる音に、愛猫の『ハナ』が耳をそばだてる。小原さんは、大切にしていた烏骨鶏のヒナを食べてしまったネズミへの仕返しをどうしようかと考えている。現在、齊藤さん、小原さん共に通院中のため、夢楽窯にはしばらく火が入っていない。「まだ作りたい気持ちがある」と2人は声を揃える。「握力の落ちた高齢者のために、もっと持ちやすい湯呑みや使いやすい急須を作ってみたい」と、齊藤さん。「また暖かくなる頃には」と思っている。齊藤さんと小原さんの同名の作品『焼締鶏形花器(写真)』を、本記事の掲載に併せて睦沢町立歴史民俗資料館にて展示中。詳しくは問合せを。

 

問合せ:睦沢町立歴史民俗資料館

Tel.0475・44・0290

 

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