茂原・長柄の史跡巡り 後世に伝えるメッセージ

 縦約110センチ、横50センチの古びた銀色の軽く四角い物体。素材はアルミニウム合金の一種、ジュラルミン。昭和20年、太平洋戦争の最中に東京方面へ約250機飛来したといわれる米軍爆撃機B29の扉だ。3月13日、戦争遺跡を中心とした『茂原市・長柄町の歴史散策』バス研修が、市原市の三和コミュニティセンター主催で行われ約30名が参加した。この扉は当時、現『市原ぞうの国』近くに落下したもので現在は市原市立鶴舞小学校所蔵。講師『市原古文書研究会』会員の佐野彪さんが出発前に披露した。
 B29は長柄町榎本地区にも墜落している。搭乗員、エムリー少尉は瀕死の重傷を負っていた。「楽にしてやれ」満淵正明中隊長の命令により境野鷹義曹長が斬首。この行為が、後のBC級戦犯の裁判で捕虜虐待とみなされ満淵隊長は絞首刑となる。『茂原事件』とも呼ばれるこの出来事は、エムリー少尉と満淵中隊長の鎮魂と世界平和を祈念し、長栄寺の鎮魂碑に刻まれている。一方、日本の航空機を敵の攻撃から守るための掩体壕が茂原市には11基も残されている。本小轡にある5、6号と最大規模の3号を見学した。アーチ型のコンクリート製戦闘機格納庫の上部は土で覆われ、木や竹が密生しており、耐弾性、敵からの隠蔽、施設の分散といった特徴がうかがえる。
 長柄町高山、大田實中将の生家の隣に建てられている顕彰碑も戦争を知る貴重な資料だ。昭和20年1月、海軍出身で砲術が専門だった彼は地元を離れ、沖縄方面根拠地隊司令官に着任した。米軍が海軍司令部に迫った6月、海軍壕内で自決、54歳で生涯を閉じた。沖縄県民の敢闘の様子を訴えた海軍次官宛の決別電報は有名である。軍人としてはその栄誉を讃えられての顕彰碑だが、後に長男の大田英雄は、自著『父は沖縄で死んだ』(高文研)の中で、戦争が兄弟の生き方を引き裂いたこと、父親の戦争責任について言及している。
 佐野さんは「終戦の年、私は6歳でした。B29は子ども心にも大きくて恐ろしいものだと記憶に残っている。川在にあった市原市立養老小学校の分校では米軍機による機銃掃射で子どもも犠牲になりました。戦争においては敵も味方もない。その悲劇を次世代に伝えていかなければ」と話した。
 その他、国指定文化財となっている古墳群、史跡長柄横穴群(徳増)と記念碑『お馨さんの墓』がある妙楽寺も訪れた。『お馨さん』は明治時代の作家、徳富蘆花の実話をもとにした悲恋小説『梅一輪』に登場するヒロインの名前だ。モデルとなった石倉芳子さんは茂原市箕輪に住んでいた。また、茂原市立美術館郷土資料館で展示されている、明治42年に開業した茂原~長南間の人車軌道を走った人車も一見の価値ありだ。 
 茂原市鷲巣の鷲山寺では元禄16年11月(新暦では12月)に起きた大地震による被害の大きさを物語る元禄津波供養碑を拝んだ。周辺10村の犠牲者はおよそ2150人。震源地は房総半島沖。マグニチュードは7.9から8.2だったと推定される。3年前に起きた東日本大震災での津波被害はいまだ記憶に新しく、およそ300年前に起きた地震の恐ろしさと人々の苦労は容易に想像できる。「多数の犠牲者が出た原因のひとつは寒い冬、それも夜中に起きたことがあげられる。これらの碑は、私達に平素から用心することの大切さを教えてくれている」と佐野さん。 
 参加者は「話を聞くだけではなく、実際に自分の目で遺跡を確かめることができてよかった。戦争の悲惨さがリアルに伝わってきました」と話した。戦争遺跡や津波供養碑に込められたメッセージをいかに受け止め、後世に伝えていくかで私達の未来は変わってゆくだろう。

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