バレエ・コンクールin 横浜1位 繊細な恋心をけなげに表現した中学生

シマダバレエ学院 吉野那奈美さん

『ジゼル』の第1幕。心臓が弱く母親から踊ることを禁じられたジゼルが恋するアルブレヒトの前で踊る嬉しさと恥ずかしさを表現したシーン。「役になりきり目の前にアルブレヒトや母親がいると想像しながら踊りました」と笑顔で話したのは茂原市立南中学校3年生の吉野那奈美さん(15)。日本バレエ協会関東支部による『第12回 バレエ・コンクール in 横浜』においてクラシック部門ジュニア2部で第1位(横浜商工会議所会頭賞)を受賞した。
 今年1月にNBA全国バレエ・コンクール出場(第4位)。3月の春休みから始まった7月の発表会の稽古と並行して4月には市川のバレエ教室『鬼高クラシックバレエ』の発表会に賛助出演し、難曲の『ドン・キホーテ』でグラン・パ・ド・ドゥを踊った。さらに5月のコンクール出場曲『ジゼル』を練習する過密なスケジュールだったが、「ドン・キホーテのグラン・パ・ド・ドゥで成長できました」と前向きに受け取る大物ぶり。
 コンクールに向け、アラベスクから上体を傾け後ろの脚を垂直まで上げてパンシェするところをいつも失敗していたので、決選前日はホテルで予選のDVDを何度も見て成功した自分を思い浮かべたという。本番の舞台は集中していたため、踊り終わって周りから「今までで最高に良かった」と言われようやく「ミスがなかった」と気づいた。1位で自分のエントリーナンバーが呼ばれたときは「えっという信じられない気持ちでした」。それから母親や友だちが喜んでいるのを見て嬉しくなったそうだ。
「この子にバレエを習わせませんか」とシマダバレエ学院理事長冨川修治さんが母親に声をかけたのは1999年。たまたま吉野さんの祖母宅を訪問し生まれたばかりの吉野さんを見た冨川さんは「カンが働いたというか。表現者として大切な目が生き生きしていると感じた」と振り返る。バレエを始めたのは4歳。最初はスキップや音楽に合わせて体を動かすことが楽しくてレッスンに通ったという。
 トゥシューズを履いたのは小学2年生の時。3年生でコンクールに出るように勧められ、「アドバイスされたことを直していけばどんどん上手になり、注意していただく嬉しさを知りました」と語る。中学1年生のとき、茂原市制60周年記念事業『くるみ割り人形』の全幕公演でクララとして出演。プロのダンサーと踊るパ・ド・ドゥの練習は同バレエ学院蘇我校で行ったため、学校が終わると仕事に出かける前の母親が朝用意してくれたお弁当を電車のなかで食べ通った。バーレッスンを終えたあと、教師との練習は深夜までになることもあった。帰りは何時間でも待ってくれた父親が運転する車のなかで眠った。トゥシューズは1週間でだめになることも。
 ほとんど5、6時間練習する毎日。週1回の休みには整体やマッサージに通い、疲れを取り体のゆがみを直す。いままでにマメができたり、足の皮がむけたりしたことはないという丈夫な足の持ち主。学校の勉強は「眠くなることもあるけれど、授業をちゃんと聞いて、宿題は昼休みや早朝すませるようにしています」。リハーサルやコンクールの日には学校を休まなければならないが、「全てバレエ優先の生活」だ。「できないことは次にレッスンを受けるときまでにクリアするようにしています」と当たり前のように言う。冨川さんによると「教えたことを次回までに修得できる生徒は少ない」そうだ。
 中学を卒業したら「カナダかイギリスのバレエスクールに留学したい。お世話になった方への恩返しにいつか舞台で人を感動させられるバレリーナになりたいです」とのこと。今年7月の青葉の森公園芸術文化ホールで行われた同学院の発表会では『ジゼル』の第2幕を踊った。死んで精霊となった無表情で悲しげなジゼルはいつも明るく楽しそうな吉野さんとは正反対。「笑ってはいけないし、お化けの軽さを出さなければならならない難しい役でした。舞台で役を演じるということは普段の何倍ものエネルギーを使い感情表現しなければならないとわかりました」と話す。過酷な練習に耐えるパワーと恋心を表現する繊細さを秘めた中学生の表情はあどけないが、立ち姿には凛とした気品が漂う。直接指導する同学院学院長島田孝子さんは「大人でも難しいストーリーのある作品を努力と素直な心でけなげにやり抜きました」と将来に向け一層の成長を期待する。

問合せ シマダバレエ学院
TEL 0475・24・3400

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