アーティストの素地を育んだ祖母の家を改築

ギャラリー『夏庭』の管理人になる
版画家 内田 真理さん

 「古民家と里山の自然とともに質の高い芸術作品をゆったりと楽しんでいただけたら幸いです」と話すのは東京都在住の版画家、内田真理さん。両親が亡くなったあと、長柄町の築150年の祖母の家を引き継ぐことになり、一部ギャラリーに改築した。庭にはカワセミが訪れる池があり、竹林に手掘りの横穴、小さな祠、炭焼き小屋跡などかつて住んでいた人たちの生活の足跡が残る。隣は先祖代々が眠る沾通寺。
 初めはアニメの製作会社を経営していた夫とともに訪れ、家の手入れをして楽しむだけだったが、2015年からギャラリー『夏庭』としてゴールデンウィーク期間中のみ展覧会を兼ねて公開している。今年開くのは、昨年まで大多喜町にアトリエを構えていた、石彫作品で知られる現代美術家斉藤和子さんとの二人展。
 市川市の都市部出身の内田さんは「子どもの時、夏休みごとに来るのが楽しみでした。目の前に広がる一面の田んぼは今もあの頃のまま。自然豊かな祖母の家で美意識を培ったのかもしれません」と静かに語る。祖母は明治生まれ。この家に嫁いでからも長柄町の日吉小学校の教師として勤め、娘二人を育てあげた。「常に穏やかで理知的な人でした」。戦後まもなく、内田さんが小学校に入る前は親戚たちも暮らし、農作業を手伝う人が出入りする賑やかな家だった。かまどがあった土間の台所は裏庭の井戸に続いており、池で洗い物をしていた。
 美術大学卒業後、柔らかいタッチのリトグラフの魅力にはまり版画家としての道を歩み出した内田さん。学生時代に知り合った夫と結婚し、個展やグループ展を開く傍ら、50代半ばまで都内の中高一貫校で美術講師として働いてきた。文化庁のアーティスト派遣制度でニューヨークへ留学したこともある。
 作品の明るさとふんわりとした色調は内田さんの人柄そのまま。「文学だったら、小説ではなく詩画集のようなイメージ。自己主張しないで見る人に寄り添い、生活空間の中で手に取って楽しめるようにしたいのです」と微笑む。登場する人体はあいまいで、表情がない。「顔があると現実の人間を想像させてしまいます。受け取る側がイメージを膨らませてほしいのです」
 ギャラリーに掛けてあるリトグラフ『友人の夜』は、『友人の朝』と対になる作品。重い病を患った知り合いのため元気になってほしいと制作した朝に対し、「夜は、希望に満ち溢れ元気でいるだけが人生じゃない、病気を抱えたまま生きるのも人生というつもりで作りました」と達観した気持ちを語る。

 別の版画には絵巻物の図法を使った人工物、浮世絵の図柄を取り入れた自然、人体の一部と日本的なモチーフが描かれている。育った時代は戦後。日本文化を否定し、西欧文化を礼賛する教育だった。大人になり日本の良さを再発見し、能、歌舞伎や文楽に親しむようになった。
 「能の舞台装置は線で描いたデッサンのようなもの。細い木や竹を井戸や牛車に見立てる抽象的な世界。日本美術も同じです」と筋道を立てて語る。「祖母の家を残したのも日本文化の大切さに気付いたからかもしれません」。最近は和紙を台紙に使う。「しっとりとした触感が好きです。版画は油絵や彫刻に比べ早く劣化します。いずれ土に返る、はかないものにふさわしい素材です」
 創作することが当たり前のように生きてきた。「日本の芸術作品に触れたり、自然が変化していく様子を見たりといろいろなものを日々感じて、取り込み、一つの方向にまとめ、結晶させていきます」と自分の内側に起る変化を明かす。「作るのが日常です。他に出来ることがありませんから」。将来、改築した家もどうなるのかはわからない。版画家として生きてきたのも、ギャラリー『夏庭』の管理人となったのも「流れのままです」と振り返る。
・夏庭『内田真理・斉藤和子展』4月29日(土)~5月7日(日)  10時30分17時 (最終日16時)〒297の0211 長生郡長柄町榎本479 4月29日(土)14時 長柄町在住のチェリスト大友肇ミニコンサート 入場無料

問合せ 内田さん
TEL 080・5077・4736
HP http://mariutida.com
『夏庭』HP http://natuniwa.com/

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