キョンの有効利用で命の大切さを考える

 いすみ市では、野生動物による農業被害が深刻な問題になっている。最近では特定外来生物・有害鳥獣であるキョンが住宅地にまで現れ、果実や花、残飯まで食い荒らす程になっている。キョンとは小型のシカで、中国南東部や台湾が原産。問題のキョンは勝浦市の行川アイランド(平成13年閉館)から逃げ出したものが、野生化し増えたと考えられている。千葉県では県内からの完全排除を目標としているが、キョンは単独で行動することが多く、たまにイノシシの罠にかかるくらい。一般に食用として流通することもないため、積極的に捕獲する人がいないのが現状。出産は1回に1頭だが、繁殖期は1年中で、今いすみ市で一番増えている野生動物といえる。
 そこで、いすみ市では都市地域から地方の活性化に意欲のある人材を『地域おこし協力隊』として募集。イノシシなどの害獣対策と共にキョンの捕獲強化を委嘱することにした。そして2015年から3年間の期限で農林部門に配属になったのが石川雄揮さん(39)と志賀慶介さん(24)。石川さんらはまずキョンの皮に目をつけた。専門家によるとキョンの皮は繊細な繊維で、加脂、除脂、塩素の吸着といった性質があり、なめしたセーム革は貴金属や楽器の手入れ、美容素材として最高クラスの品質を持つ。現在、日本で流通しているセーム革はすべてが中国産。いすみ市のキョンを利用するなら、純日本産のセーム革の生産が可能になり、需要が高まれば捕獲する人も増えてくると考えた。
 「捕獲したキョンの皮をなめし、ファーストベビーシューズやキーケースを作るクラフト教室を3回開催しました。いずれもすぐに定員になり、人々の関心が高いことが分かりました。キョンの価値を上げるため、皮と並行して肉や角の活用調査も進めています」と石川さん。しかしキョンを活用すると言っても、いすみ市だけ、しかも石川さんだけが従事していたのでは捕獲は進まない。そこで石川さんはキョンの皮を剥ぐ技術を研究し、短い時間で処理できる方法を開拓し、その技術を県内の猟師に伝え、皮を買い取ることで、千葉県全体の捕獲頭数を増やそうと考えたのだ。
 現在はまだ県条例の壁があるものの、将来は移動式解体処理車の導入も考えている。これは動物が捕獲された場所に行き、車内で素早く解体処理をする目的で作られた車。素早い処理ができるので、より良い食肉利用が可能となるだけでなく、既存の解体処理施設と違い、御宿町や睦沢など広範囲の地域をカバーできる。
 「キョンは今、ただ殺され処分されているだけです。有害動物と言っても命は命。日々その命の重みを感じているからこそ、命に敬意払い、その尊さを皆さんに伝える活動もしていきたいと思っています」と志賀さん。
 2人は協力隊としての任務が終わっても、いすみ市に住み、県内全域の猟師からキョンの皮を買い取り、加工して販売する仕事に従事しようと考えている。このように、いすみ市で新たな産業を生み出すなら、移住者や猟師も増え、過疎化対策にもなると、市も大いに期待している。

問合せ いすみ市地域おこし
協力隊 石川雄揮さん
TEL 0470・62・1280

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