鹿児島から千葉へ 自転車で辿る旅の思い出は宝物

水野 翔太さん(茂原市)

 茂原市在住の水野翔太さんは今年の2月に3週間かけて、九州の鹿児島県から自宅まで約1400㎞の道のりを自転車で走行するチャレンジを達成した。「大学生活最後の春休み、就職をする前に大きな挑戦をしてみたかったんです」と、満足気に話す水野さんが、このチャレンジを試みるきっかけは、友人と計画、実践した昨年の夏のこと。  「高校時代から仲のいい友達と3人で、千葉県から富士山の頂上まで徒歩で6日間かけて行ったんです。富津市の金谷港から浦賀港までフェリーを利用しましたが、湘南を抜けた後もすべて歩きでした」と続ける。寝袋など20㎏の荷物を背負い、真夏に一日40㎞を歩く挑戦に、一緒に歩いた友達は人生で一番の挑戦だったと大満足。
 だが、水野さんは楽しかった半面、どこか物足りなさを拭えなかった。というのも、小学2年生から空手を続け、19歳の時に世界大会で準優勝するほど実力者の水野さん。屈強な身体と忍耐力の強さは、幼いころから鍛え上げている。「もう少し大きなことにチャレンジしてみたくなった」という彼が決めたのこそ、九州からの自転車の旅だった。 空手の大会が控えていたこともあり、挑戦できる期間は3週間ほど。自転車の輸送料がかからないよう往路ではなく復路でのチャレンジとなり、「ひたすら家に帰るミッションだった!」と笑う。羽田空港から鹿児島空港へ飛び、事前に調べ電話で連絡しておいた空港周辺の店舗で自転車を購入。自転車の装備はほぼなく、テントを含んだ荷物もくくりつけるのみ。
 さらに不運なことに到着日は鹿児島に寒波が到来し、珍しく雪まで降る始末。「ホテルやネットカフェなど論外。所持金は10万円から自転車代を引いた分のみ。野宿しつつ、携帯で地図を見ながらの走行はアクシデントの連続!」だったとか。寒さはもちろんのこと、時には地図に従って山に入ったにも関わらず危険な山道を数時間さ迷い、チェーンははずれ、霧の中をひたすら走ったこともあった。
 「落ち込んだ時に電話をかけてきたので、私は諦めるのも選択だと話したんです。でも、小学生の頃は泣き虫だった彼ですが、大人になるにつれて我慢強くなっていました。決して口数は多くないけれど、決めたことはしっかりやり遂げるんです」と話すのは、水野さんの母だ。

挑戦して得たもの

 鹿児島県から熊本県、福岡県と九州を海沿いに縦断関門トンネルから本州へ入る頃には1週間が過ぎた。次第にコンロを買って飯盒炊飯するなど野宿生活さえ楽しめる余裕が生まれていた。友達や母親と電話で話すことはあっても、長話はできない。道行く地元の人や同じように自転車でチャレンジ中の人と会話をして楽しむことも多々あったが、その中で一番親切にしてくれたのが山口県宇部市の男性だった。「道を尋ねに入った施設で会った男性は、彼の所有している家に泊めてくれたんです。食事も提供してくれてとても温かい人柄でした。戻ってきてからも手紙のやり取りをしている」とか。相手は見ず知らずの旅人だ。他人に無関心な時代になりつつある中で、人の優しさに触れた瞬間だった。
 「テーマは、日本を知る旅、でした。美味しいものを食べて観光するのではなく、日本の地理さえ得意でない自分が、どこに何があるのか実際に目で見て学ぶ目的が大きかった」という水野さんは、その後、香川県や兵庫県、奈良県や三重県を通って大阪まで到着した。「空手の知り合いが大阪にいて、道着を借りて稽古もしました。野宿の時に公園で一人練習も続けていたので、いいアップになりました」と、どこまでも熱い。神奈川県から1日で千葉県に入ると、一気に安心感がこみ上げた。
 現在は、都内の商社で営業職に尽力する日々を送る水野さん。彼が大学生活最後の挑戦で得たものはなんだったのか。「旅がどう役立ったのか、まだ実感できていません。今は仕事に慣れることが大変です。でも、旅の途中で何度もきつい時に限界が見えました。そこを乗り越えた自分のタフさを知っていることは、大きな力になっているかもしれませんね」と頷き、「会社でも世代を超えた年齢の人と、空手や旅の話で盛り上がれます。考え方も常識にとらわれなくなったかも。長期休暇は学生の時ほどとれないけれど、今度は北海道まで自転車で行ってみたいです」と笑顔を見せた。

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