先達から次世代へつなぐバトン 成東・東金食虫植物群落 国天然記念物指定100年【外房】

 山武市と東金市の境に位置する『成東・東金食虫植物群落』。大正9年(1920年)に日本で初の国天然記念物の1つとして指定され、昨年100年を迎えた。山武市殿台の歴史民俗資料館では『食虫植物群落保存 百年の道のり』と題して、企画展を第Ⅰ期と第Ⅱ期に分けて開催。現在第Ⅱ期を5月30日まで開催中。戦後に訪れた食虫植物群落消滅の危機から現在の積極的な保護体制に至るまでの経緯について、貴重な資料とともに展示・解説している。
(写真提供:成東・東金食虫植物群落を守る会)

食虫植物とは

イシモチソウの花

 食虫植物は一般の草や木が育ちにくい湿原や荒野に生育する植物で、栄養分の少ない環境で生きていくために捕虫といった特別な栄養分の取り方を身に付けたといわれている。世界に約780種、日本に約20種ある中、当地では8種が確認されている。『モウセンゴケ』『コモウセンゴケ』『イシモチソウ』『ナガバノイシモチソウ』の捕虫方法は『粘りつけ式』で、葉の表面に多数の腺毛があり粘液で虫を捕らえる。『イシモチソウ』は、粘液が小石を持ち上げるほど強いのでこの名がついたとされる。残り4種は『吸い込み式』で、『ミミカキグサ』『ムラサキミミカキグサ』『ホザキノミミカキグサ』は地下茎に虫を捕らえる袋・捕虫嚢(ほちゅうのう)があり、プランクトンを捕らえる。『イヌタヌキモ』は水中の葉の間に捕虫嚢があり、ミジンコなどを捕らえる。

食虫植物群落保存の道のり

イシモチソウの捕虫の様子

 

 かつての九十九里平野は沼や湿原が多く、湿生植物や食虫植物の宝庫だった。多くの湿原は戦中戦後の食糧政策・宅地開発などにより消滅、『成東・東金食虫植物群落』は希少な存在となった。群落は江戸時代より4集落にまたがる公有地だったため開墾されることがなく、隣接する作田川が氾濫した際の土手修復に土を採取したり、牛馬の餌のための芝刈り場としてのみ活用されていた。この環境が大型植物の繁茂しない、貧栄養状態の湿原環境を好む食虫植物の生育にとって適していた。

群落風景

 大正時代に入り保護を目的に天然記念物として指定されるが、立ち入りが禁止され人の手が及ばなくなった結果、ススキやヨシなどの大型植物が繁茂し、かえって食虫植物に危機が及ぶ状況となった。植物学者の牧野富太郎も大正14年に当地を訪れ群落の危機について警告を発したものの、その声は生かされず、有効な保全の機運が高まるのは第2次大戦後を待つことになる。

 昭和21年頃、地元島区の青年らにより地域産業発展のため『愛土会』が結成され、活動の一環として群落の保護・管理活動への協力を開始した。昭和62年には地元住民の声をきっかけに旧成東町主催の案内ボランティア養成講座が開講され、同年ボランティアの案内活動を開始。この活動が基となって平成5年、『成東・東金食虫植物群落を守る会』が発足した。

植生調査

 この間、群落に最大の危機が訪れる。昭和45年、耕地整理に伴い群落を分断する道路敷設が計画されたが、高校生の県知事宛ての新聞投書をきっかけに計画は中止、群落は守られた。以降、行政を主体とした保護活動が活発化することとなった。

貴重な群落を後世へ

大型植物の刈り取り作業

『成東・東金食虫植物群落を守る会』は山武市から委託を受け、保護・管理の中核を担っている。現地案内、観察会・講演会の開催、ガイド・パンフレットの執筆、調査など活動は幅広く、『愛土会』とは共同で、野焼き・大型植物の刈り取り・帰化植物の除去などを行う。会長の岩瀬政広さんは、「群落には食虫植物を含む約450種の植物、他多くの昆虫、動物、鳥類などが生息し、生物多様性に満ちています。季節ごとに咲き揃う花々も見事です」と話す。約3・2ヘクタールの指定地は管理棟や観察路が整備され、4月から10月にかけて一般公開される。幹事の能勢正代さんは、「植物が好きで群落と関わって30年以上になります。群落には毎日のように通っています」と、今まで撮りためた写真は数知れない。歴史民俗資料館館長の稲見英輔さんは、「当地はこれまで多くの危機を乗り越え、今の姿があるのは奇跡のようなものです。地域の方をはじめ多くの方々に支えられてきました。これからも行政として責任もって守っていきたい」と群落への思いを語った。

(左から)能勢さん、稲見さん、岩瀬さん

 コロナ禍終息まで案内活動や観察会は休止。『守る会』ホームページでは開花情報を掲載している。花を楽しみたい方は午前中の見学がおすすめ。5月には『イシモチソウ』の花と捕虫の様子を見ることができる。『守る会』では会員を募集中。詳しくは問合せを。

 

 

・山武市歴史民俗資料館
  Tel.0475・82・2842
  開館:9時~16時半、月曜休館

・成東・東金食虫植物群落を守る会
  http://plants.sammu.info/

・群落公開:4月~8月は毎日9時~16時、9月~10月は(土・日・祝)9時~15時
※群落は12時~13時に受付不在のため、時間をずらしての訪問をお願いします。

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ

今週のシティライフ掲載記事

  1. 『一宮ウミガメを見守る会』は3~5月にかけて、『ウミガメがやってくる町・一宮の海をもっと知ろう!』と題し、3回の連続ワークショップを開催し…
  2.  毎月第2・4(火)・13時半~15時半、東金コミュニティセンターで開かれている『ときがね川柳会』。会員は17名、最高齢は93歳で平均年齢も…
  3.  鴨川市にある私設房総郷土美術館では、6月5日(日)まで『房総が生んだモダニズムの日本画家・酒井亜人展』を開催している。美術館館主の黒川さん…
  4.  来月9日から14日、夢ホール(市原市更級)で『小湊鐵道を撮る仲間たち』展が開催される。この写真展は、写真家の故加賀淺吉氏が中心となり、6年…
  5.  敷地の中にわずか1・5畳ほどの小さな物置小屋を作りました。本来ならもっと早くに作るはずでしたが、次第に物が増え置き場所に困り始めたので、や…
  6.  ちはら台の街には公園が沢山あり、訪れた人の憩いの場となっています。  西には、テニス場がある「堂坂公園」、滑り台がある「睦月公園」、スプ…
  7.  5月になると私は、フクロウが巣を構えるような大きなスダジイを順番に回ります。運が良ければ巣立ったヒナがいるからです。でも今年は声もしないの…
  8.  市原市在住の田波武さんは、昨年4月、パズル界初の『イロハ』3文字を使ったクロスワードパズル、『ひらめきの右脳 理詰めの左脳を覚醒させるイロ…
  9. シティライフ編集室では、公式Instagramを開設しています。 千葉県内、市原、茂原、東金、長生、夷隅等、中房総エリアを中心に長年地域に…

ピックアップ記事

  1. 『一宮ウミガメを見守る会』は3~5月にかけて、『ウミガメがやってくる町・一宮の海をもっと知ろう!』と題し、3回の連続ワークショップを開催し…

スタッフブログ

ページ上部へ戻る