生きづらさを抱える子の「未来」に向けて (一社)こども未来共生会 理事長・統括施設長 中島 展(ひろと)さん

 鹿児島県出身。58歳。大学進学のため上京し卒業後、東京学芸大学付属養護学校(現・特別支援学校)にて教職に就く。同校小学部での3年間の勤務を経て、大学で専門に学んだ自閉症に関する知識を最大限に活かすべく福祉支援の現場へ。奥多摩の重度知的障害者施設、東京都の支援で設立されたいすみ市の知的障害者入所施設での計16年間の勤務の後、2007年より千葉県庁障害福祉課職員として、全国初の障害者差別解消条例「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」の第1期広域専門指導員となる。  療育に関する研究活動に長年精励するなかで、その後、専門学校および大学の教壇に立ちながら(非常勤講師)、浦安市こども発達センター心理相談員として専門療育に着手。2012年、法人を設立し、児童福祉法による児童発達支援事業所「こども発達支援センターそらいろ」(御宿町)の開設を果たし、2014年に拠点を大多喜町に移す。2015年には、浦安市から市単独事業である浦安市青少年発達サポートセンター(「そらいろルーム」「みらいルーム」)の事業を委託され、続いて2017年、「こども発達支援センター鴨川そらいろ」開設。  茂原市在住。介護職に携わる妻との間に一男一女(ともに現在は独立)。「家族の理解のおかげで今があります」。

価値を見出し、信じる療育

「そらいろ」を利用する14歳の男の子は、iPadにインストールしたソフトで次々に表情豊かな動物たちを生み出す。動物好きの彼は、図鑑等で知った生き物を前向き横向きと自由自在に描く。

「世界の人口の約15%、12億人が何らかの障害を持つ」。東京パラリンピックで展開された「We The 15」キャンペーンは、障害者を人類の多様性の一部とし、あらゆる人が自分の個性を発揮しポジティブに生きられる社会をとメッセージを投げかけた。一口に「障害」と言っても、身体・知的・精神の3分類があり重症度も異なるが、パラリンピックでは、時にオリンピック選手をしのぐ記録を叩きだす選手も現れるなど「自らの価値を信じ、可能性を引き出すこと」の素晴らしさを観る者に強烈に印象づける。 

 発達が気がかりな子どもを対象に、こども発達支援センター「そらいろ」を展開する(一社)こども未来共生会は、まさにそれに相通じる理念を掲げる。開設時に打ち出した7つの理念は「『自分らしく生きたい』に対する支援」「その子の『価値』を見出した支援」「その子の持つ『感覚』や『感性』への支援」など。理事長の中島展さんは言う。「生きづらさを抱えている子どもたちが少しでも力を発揮できるよう、本人の持っている良さに徹底的に注目した療育を私たちは行います。叱るのではなく褒める。教え込むのではなく、苦手があっても楽しくをベースに、心を投資する。そして『信じる』」

 これまでには例えば、幼稚園までまったく発語がなく、運動会等にも参加できず、小学校の入学式も座っていられなかったという子どものケース。「言葉の発達がゆっくりな子は、気持ちをうまく伝えることができず癇癪をおこしたりなど問題行動につながることがあります。ですから、表出する言語ではなく、彼の内言語を外に出してあげるという療育を地道に続けました。とにかく彼を信じて。と、ある日突然、爆発的に言葉が出始め、宮沢賢治の『雨ニモマケズ』を全文暗唱したんです。彼はその後、大学に進学して学生生活を楽しんでいるようですよ」

 中島さんが御宿町で立ち上げた「そらいろ」は、当初スタッフ3名、利用者4名でスタートした。それから来年で10年。施設は大多喜、浦安、鴨川と3地域に広がり、利用登録者はあわせて1800人にのぼる。

「支援が必要な子ども、いわゆる発達障害が昔に比べ増えているかと言えば、必ずしもそうではありません。医療の発達で早期の診断が可能となり表に出る数字が増えたということです。また、社会構造や物理的環境の変化で地域のコミュニティがなくなり、今ではグレーゾーンと言われるかもしれないいわゆる「ガキ大将」の子どもたちが近所の大人に叱られたり見守られながら成長することも稀有になったしね」

 ちなみに、発達障害には「自閉スペクトラム症」「多動症」「限局性学習症」等の症状があり、かつては3歳児検診までは一般的に様子見とされてきたものの、近年になって早期治療の有効性が指摘されるようになったという。 「困り感のある子どもを正しく見立て、本人の特性に合わせた技法で療育し大人になるまで見守る。子どもの尊厳を守るため、私たちにできることは『生きてて良かった』という未来に向けて支援することです。専門性に裏付けされた支援で自己肯定感を高め、それぞれが目標を持ち常に未来の想像ができるようにと」

相互に理解しあえる社会を

同じ男の子がマジックで紙に描いた絵。何も見ずスラスラと一筆書きのように並べていく。「スイカ割りの時間だよ」という職員の言葉で、あっという間に描いたのが上のサルの絵。

「療育」は医療と教育を合わせた言葉で、「発達支援」とほぼ同義語。保護者との丁寧な面談(必要あれば発達検査)により個別の支援計画を作成し、支援を進めていく。0~6歳(未就学児)対象の「児童発達支援」、小学生~高校生対象の「放課後等デイサービス」はどちらも小規模な集団形態で行われるが、この他、「そらいろ」では個別療育も実施(房総地域では唯一)。子どもと1対1の個別ルームの様子は、保護者が待つ別室のモニターに映し出される。  なお、中島さんは療育のみならず、保護者に対する相談支援、地域支援等にも積極的に取り組む。地域支援とは、県や自治体の乳幼児健診や思春期相談、学校訪問など。求めに応じ、「学校で手に負えない子」の対処法を療育の理念に基づき教員にレクチャーする。

 講演依頼多数。他県からの依頼も多く、全国を飛び回り、最近ではWEBも。「いつも6時前に出勤して夜8時過ぎまで仕事。この5年間で丸一日休んだのは20日間位かな」と笑う中島さんに原動力を問うと、「相互に理解しあえる社会の実現のため」と返ってきた。「子どもたちの多様性を地域の人たちに受け止めてほしい。だから、学校へも行くし、講演も引き受ける。色々な子どもたちがいてひとりひとりに価値があるということを伝える、それが私の大切な役割の1つだと思っています」  そうなれば、保護者の負担も少しは軽減されるかも知れない。 「孤立させないこと」「ひとりで悩ませないこと」。保護者に寄り添い「一緒に生きていきましょう」と言える施設に。「そらいろ」の目標は「障害を支えるのではなく、家族まるごと支える」施設になることだ。「みんなが笑顔で生きるための支援施設にしていきます」。多忙の日々は当分終わりそうもない。

 

(一社)こども未来共生会 https://soracolor.jimdofree.com/

 

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