ありのままの里山を守る 自然をみんなで育て、愛して

風呂の前里山保存会

 市原市喜多の里山に広がるのどかな風景。杉林が茂り、小川が流れ、鳥の鳴き声がさえずる森の中に、小さく拓けた場所がある。市原市市津公民館より徒歩で約30分。その場所は、小字を風呂ノ前という。平成17年より管理作業を行っている団体『風呂の前里山保存会』の代表である中山美代子さんは、「ここは一年中、草花を楽しめます。今年は空梅雨だったので少し遅れていますがお盆の時期、キツネノカミソリはそこら中に咲き誇ってとっても見事なんですよ」と花を眺めていう。
 春から秋にかけてチゴユリやハンショウヅル、ヤマユリやサラシナショウマなど様々な植物が共存する風呂ノ前。しかし、この場所も中山さんらが手を入れる前、かつては荒れ果てていた時期もあったとか。ちはら台在住の中山さんが、美しい風景に魅せられて喜多の谷津田を散策していた時、偶然、藪の茂る斜面に3輪ほどのカタクリが自生しているのを発見した。カタクリは寒い地方の植物で、県内で見ることは難しいもの。「とても驚きました。私は風呂ノ前の地主さんに直接お会いして、里山保全を任せて欲しいと交渉したんです。ご理解を得ることができ、当初6名ほどで鬱蒼と茂る下草を刈り始めました」と、中山さん。
 雑木林の間伐、真竹の伐採、笹の刈取りや落ち葉かき。作業場所のほとんどは斜面で簡単なことではないが、「苦労して草を刈った後に見る花々の美しさには見惚れてしまいます」とメンバーは口を揃える。現在、メンバーは60・70代の28名。毎月第1・3月曜日と第4金曜日の計3回活動。里山の広さは千坪ほどで、主要な活動は草刈だが、秋に一度大がかりな伐採をしている。草花が一番咲き乱れる4月下旬は、舞台の緞帳が下りるように、移りゆく花々の美しさが楽しめるとか。
 数ある里山団体では、目指すべき風景や活動趣旨はそれぞれ異なるだろう。同団体のモットーは、『持ち込まない、持ち出さない』こと。そこにある自然を、ありのままに守る。風で種が舞い、新たな花々が自生する。無農薬の自然環境で、植物が思う存分呼吸する。「風の流れ、木の動き。ここは本当に人の心を癒してくれる空間です。今では日本ミツバチの巣箱を設置しています。日本ミツバチは臆病な性格で、巣箱の置く場所や彼らの好きな匂いなどを考え、3年目にしてやっと来てくれるようになりました」と話すのは、メンバーの永井正さん。生活の近い場所にある大きな自然を、みんなで育てているのだ。
 里山内にある広場では、年3回(春・夏・秋)自然観察会を行っている。植物学者を講師に招き、専門的知識を織り交ぜて行う会には毎回50名ほどの参加があり、リピーターがとても多いとか。「同じ場所に何度も通うと、定点観察ができます。手入れを続けると年々花が増えていく。それを毎年楽しみにしてくれるのがうれしいですね」と中山さん。普段でさえ、地元の住民がゆっくりと散歩をしながら斜面を眺めることがあるという。
 だが、近年問題視されている害獣に悩まされているのも事実である。百本ほど咲いたヤマユリの花は、今年、根の部分だけ食べられてしまった。「イノシシですね。人が採るなら茎から上の花を目的に切っていくでしょう。イノシシは球根部分の根が美味しいと知っているんです。ヒガンバナには毒があるって分かっているから絶対に食べないですしね」と、メンバーは頭を悩ませる。実際、明確な対策はできていないのが現状であり、解決は一筋縄ではいかないだろう。
 そして、「私たちも後継者問題に直面しています。長年続けてきたことで、メンバーの作業の目と技術は養われてきました。これを引き継ぐ必要があります」と課題も多いが、「マンションで育った大人は草をいじったことのない人もいる。子どもの付き添いできた40代の親が興奮していることもあるんですよ。みんな植物に興味はある、機会がないだけ。子どもの可能性を引き出す場所にしていけたら」と希望は大きい。通常、風呂ノ前里山への立ち入りは制限されているが、活動日、及び観察会で自然と触れ合う一歩を踏み出してみては。現在、会員募集中。詳細は問合せを。

問合せ 中山さん
TEL 0436・52・7487

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