白雲木 遠山あき

白雲木
遠山あき

 稲毛海岸の埋め立て市街を見下ろす高台に、数寄屋造りの風情ある建物があり「ゆかりの家」と呼んでいる。五月のある日「待望の白雲木の花が咲きました。高貴な香りが漂って、ゆかりの家の庭はすばらしいです。是非おいでください」と、友人から知らせがあった。
 白雲木は宮廷花と言われて昔は宮中だけに栽培が許された花木であった。期待に胸をふくらませて、稲毛海岸のゆかりの家へ出かけた。
 このゆかりの家は、かつて清国皇帝であった溥儀氏の弟君・溥傑氏が、嵯峨家の長女・浩さまと昭和十二年に結婚されて、新婚の一年ほどを住まわれた新居であった。その頃、兄君溥儀氏は日本軍部によって満州国皇帝に位され、弟の溥傑氏は政略結婚といわれ嵯峨侯爵家の姫と結婚されたのである。しかし、浩さまと溥傑氏は非常に仲がよく、円満に暮らしておいでだったと、浩さまの自叙伝に書かれている。その自叙伝を読んだ私は、健気なまでに愛情と信頼で結ばれているお二人の心情に「敬」の一字を捧げたい思いだった。お二人の愛娘で次女の「嫮生さま」をゆかりの家にお呼びして昔の思い出話を伺ったことがある。その時「父と母はうらやましいほど仲のよい夫婦でございました」と仰ったのを忘れられない。
 故大正天皇妃・貞明皇后さまは、満州へ嫁がれる浩さまの心情を思い、宮廷花の白雲木の種を「満州に植えるがよい」と浩さまに下さった。満州は寒冷と聞いた浩さまは、芽が出ないことを心配なさって実家の嵯峨家に栽培を依頼した。嵯峨家では入念に種を蒔き中の二本が育った。その種を戴いて、ゆかりの家で蒔いたのだが、なかなか発芽しなかった。しかし毎年の丹精の末、ようやく平成十一年の春、白雲木が花芽を持った。喜びに弾むゆかりの家の管理人からの伝言であった。
 さっそく私は伺って純白で高貴な花を拝し、その苗を一鉢戴いてきた。祈るような気持ちで大切に大切に育て、ようやく移植可能な大きさになったので地に下ろした。花がつくまでにはまだ十年ほどかかるだろう。白い高貴な花が咲くまで私は生きていたいと願っているのだが……。また今年も思い出の花「白雲木」に逢いに「ゆかりの家」へ伺おうと思っている。


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