美容師人生に悔いなし

美容師人生に悔いなし
高滝神社の花嫁祭りを支える
鮎貝 たけ子さん

 長年、社会に尽くしてきたお年寄りを敬い、感謝する敬老の日がまもなくやってくる。「元気で長生きしている95歳の母を見習いたい」と話し、生涯現役を目指すのは美容師歴57年、市原市徳氏で美容院を経営して50年の鮎貝たけ子さん(75)。毎年、高滝神社春季大祭で行われる花嫁祭りの花嫁を作る。
 花嫁祭りは約90年前からある神事。前年に結婚した女性が婚礼姿で参詣し、子授け、家内安全を祈願する。かつては各家で仕度をしてそれぞれお参りをした。戦争などで途切れた事もあったけれど、40年ほど前から神社が行列を仕立て続いている。現在は露天の連なる参道を天狗の先導で花婿が付き添い、文金高島田に打ち掛け姿の花嫁が歩く。20年前から稚児行列も出るようになった。
 鮎貝さんが神社の依頼でお世話をするようになったのは平成9年。衣装は事前に参列する女性と相談して決め、かんざし、懐剣などの小物は女性の顔を思い浮かべ、鮎貝さんが何日も前から寝ずに揃える。幸せな結婚生活を送ってほしいと願い、「当日は婚礼前の初々しさとは異なる華やかさと艶やかさを出し、一人ひとりの顔立ちや体型に合わせて高滝神社で映える姿に作る」。花婿との釣り合いや行列のバランスも大切にしているそうだ。子どもの頃は自分も長袖の着物に三尺帯を締めお祭りにでかけた。お仲人さんの付き添いで黒引き振袖や訪問着姿の女性が20人、30人と続いたという。「いつかは自分もなりたい」とあこがれた。「あのとき目にした花嫁の輝きと美しさを再現したい」と考えている。
 鮎貝さんが美容師になったのは祖父に「農家の女性が体を休められるような社交場を作るように」と勧められたからだ。病弱だった父親のかわりに、小湊鉄道を定年退職した祖父が新聞配達をし、配達先にうどんを売って学費を工面してくれた。中学を卒業して友人たちが農家などに奉公にでるなか、昭和29年、千葉パリ美容学校の第1期生となった。寮の9人部屋で1年間の自炊生活。大卒や主婦の同級生に交じってフランス語、生理解剖学や化学を学んだ。中学で炭焼きや和裁の授業しか受けてこなかった鮎貝さんは、難しい漢字や化学式を覚えるため寮を抜け出して月明かりで勉強したという。「なんでもきちんとやり遂げる性格」。実技の成績は1番で卒業した。
 インターンになると自宅通学。飯給駅への道はまだ舗装されていなかった。「駅まで歩いた運動靴を駅舎のベンチの下に隠し、ハイヒールに履き替えて電車に乗った」と懐かしむ。電気パーマからコールドパーマに移行した時代だったので、近隣の美容院にコールドパーマのかけ方を教えに行ったこともある。美容師の免許をとり、鶴舞の美容室を借りて2年ほど営業したあと、東京へ出た。結婚後、実家に親子4世代同居して美容院を構えたのが昭和38年。近隣に女性が憩えるような娯楽施設や美容院がなかったこともあり、早朝は農家の女性、夕方5時過ぎからはゴルフ場の仕事を終えたキャディたちが次から次へとやってきた。家事や育児は見習いに任せ仕事一筋。援助して美容学校を卒業させた縁者の娘たちも数人いた。
 平成5年、実家の松林を気に入り徳氏に住みたいと言ってくれた21歳年上の夫を事故で亡くした。大病を患い、花嫁祭りに痛み止めを打ち、杖をついて臨んだこともあったが、「お店を閉めようと思ったことは一度もない」。今年は3月12日に胃の手術を受けた。退院後すぐに卒業式、里見小学校閉校式などに出席する人の着付けをこなし、1カ月後の花嫁祭りも無事終えた。「来年4月のお祭りには、花嫁の人数を増やし成功させたい」とやる気満々。
 今は得意客も高齢になり、祖父の言葉通り地域の社交場になった。「ここで1日楽しく過ごして欲しい」と美容が終ると手作りのマーマレードでロシアンティーをいれ、おしゃべりをする。「私、病気なの」と周囲に明るく話す鮎貝さんに「私も病気。元気づけられた」と打ち明ける人も。「家の前にある川沿いに花を植え、散歩道を作りたい。由緒ある鮎貝家の歴史をまとめたい」とやりたいことは尽きない。
 昨年、ひ孫が生まれた。「くよくよしないで好きなように生きてきたから」と笑顔で美容師人生を振り返る鮎貝さん。今までに作った花嫁は300人以上になる。「毎回、出来はまだまだ」と納得しないが、花嫁の家族から「うちのお嫁さんが一番きれい」と褒められるのが生きる支え。

問合せ 鮎貝さん
TEL 0436・96・0047

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