季節のスケッチ
- 2014/6/20
- 市原版

俳画と文 松下佳紀
私の住む周辺で蛍を見たのは十年も昔だろうか。残念だが、その後は全く見ていない。農薬散布や自然環境の激変で今や蛍は減るばかり、人間に保護されなければ命脈を保てないようだ▼市原にも地域の人々の努力で守られている蛍の名所が幾つかあるが、古敷谷で見た昨年の蛍は数も多く見応え十分だった▼六月の山間の夜気はやや湿りを帯びて濃密だ。その漆黒の闇を舞台に、小さな発光体は力強く、また儚い明滅と光芒を放ち、高く低く浮遊する。その無数の命の乱舞、甘美で厳粛な無言劇に魅入られた多くの人々は、感嘆の声をあげてはならぬかのように声をひそめる。居並ぶ子供たちもそれにならい、少しだけ行儀よくしていたのを思い出す。