いつも通り

文と絵 山口高弘

 木々は葉を落とし、風が冷たくなって、秋と冬の境目がなくなりました。いつも通り地球は回って、季節をぼんやりと進めているのです。何万年も続いてきた、地球のルーティンワーク。見慣れた街にイルミネーションが灯り、クリスマスの曲も聞こえてくる。僕ら人間の営みもいつも通りです。今のうちに落ち葉の写真を撮ろうか。年賀状を、そろそろ用意しなくちゃな。
 僕は秋に携帯電話を買い替えていました。6年使った古いものから、最新のスマートフォンにしたのです。前よりも気軽に、写真や動画を撮影できる。紅葉、空、街の電飾の写真、犬がはしゃいでいる動画。友人にそれらを送り、気軽に共有して、一言二言文字でやりとりをするようになりました。パソコン機能が携帯電話のサイズになっているから当たり前だけど、新鮮です。
 ところが高い金で買った代償として、ぞんざいに扱えなくなってしまった。6年使っていた古い携帯電話はジーンズの左ポケットに入れるのが定位置で、その形にジーンズが色落ちする位でしたが、新しい電話は大きくて入らない。おまけに薄くてもろくて割れやすい。ポケットに入れるのは危険だ。カバーもかけないと。携帯を守るための携帯カバーを携帯して、鞄の中の分厚い袋にしまいこんで、ようやく安心できました。
 街の夜がいつも通りにそわそわし始めて、買い物袋を提げた男女とすれ違います。僕が友達と待ち合わせると、開口一番、釘を刺されました。「ずっと電話に出なかったけど、何かあったの?」しまった。僕はジーンズの左ポケットに手をつっこんで、「ああ、ごめん。携帯を携帯してない」謝りました。携帯電話は宝石か何かのように、鞄の奥で厳重に保管されていたからです。そう、僕の新しい『いつも通り』のせいで。

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