先人たちから受け継いだ『室礼』を若い世代にも伝えていきたい

室礼講師 関 俊子さん

 節分を前に、市原市ちはら台にある古民家を現代感覚にアレンジしたギャラリー『アトリエ トキ』で、室礼イベント『日本のこころ 楽事・和の室礼・節分』が開催された。室礼とは、自然と共に生きてきた日本人の暮らしが生んだ年中行事における、もてなしの心を家の中で形に表したもの。動詞にすれば、「しつらえる(設える)」ことで、目的に合わせて「整える」、「飾り付ける」などの意味。たとえば、正月に鏡餅をお供えしたり、3月の雛祭りで雛人形を、5月の端午の節句で鯉のぼりを飾るのも室礼。
 かつて、日本の家庭では四季折々の室礼が行われてきたが、高度経済成長期以降、ライフスタイルの変化もあり、今では行う家庭は少なくなってきた。そんな現状に、市原市在住の関俊子さん(67)は、「室礼とは、1年、人生の節目に季節、言葉、心を形として盛って、先人の精神文化を年中行事を通し伝えていくことです。ところが戦後、住まいが欧米化し、自然を破壊し、それまでの暮らし方や考え方を古いと拒否し捨て去ってしまった。そして現在、ものが豊かになったはずなのに、癒しを求める人たちが増えてきている。これは、どういうことか。ものでなく、心の豊かさが大切だということに気づいたからではないでしょうか。室礼とは、床の間や縁側などがある昔ながらの住居でなくても、きちんとした道具がなくてもできることなのだということを、ひとりでも多くの方に知っていただきたい」と、今回開催イベントの講師を引き受けたいきさつを語る。
 イベント当日は、11時から特別講師として招かれた日本伝統水引工芸研究会師範の高田雪洋さんが参加者に、節分の室礼にと和紙を使って鬼のお面作りを指導した。お面作りのあとは、豆を入れた枡、鰯を刺した柊とすりこぎを添え、隣の和室で室礼を。「節分は、新しい春を迎えるにあたり、家中の邪気を払い福を迎える日。鬼とは疫病や災害、冬の寒気、自分の心の中の鬼のこと。古代中国の陰陽五行説により、東北の方角が悪いところとされることから、その方向に向けて鬼のお面を置きます。この鬼門の方角は十二支では丑寅。だから、鬼はウシの角を持ち、トラの毛皮のようなシマシマパンツをはいている。それから、京都御所の鬼門には比叡山の延暦寺があり、江戸城の鬼門には上野の寛永寺がある。厄を防ぐために神社が建てられたことがわかります。また、煎った豆は射ると同音で邪気をやっつけ、柊はトゲで鬼の目を刺し、鰯は臭いで鬼を追い払うという意味。ちなみに、柊は70年も経つとトゲがなくなる。人間も同じね」と話す関さんに参加者は「なるほど」と頷きながらも笑いがもれる。
 尚、すりこぎは、あたり棒と呼ぶ。「する(失す)」というのが忌み言葉なので言い換えるそうだ。和室には餅花や和紙に墨で書かれた鬼の文字などが飾られてあった。ひととおり、関さんのお話を聞き、昼食をとる。三段重ねの信玄弁当をいただきながら、再び室礼についての会話を楽しむ。イベント終了後、関さんは「今日の参加者はシニアの方々でしたが、できれば若い方にも是非、参加してほしいですね。そして、次の世代にも伝えてほしい」と話した。
 結婚し都内から市原市に移り住んで40年。関さんが室礼に興味を持ったのは25年ほど前。一男一女を授かり、子育ても一段落した頃。「雑誌に載っていた、室礼研究の第一人者である山本三千子さんの記事を読み、すぐに学んでみたいと1日見学会に参加し、その日のうちに生徒になりました。10年ぐらい隔週で都内の教室に通い、講師の免状をいただき、都内にある読売のカルチャー教室で、2年間講師の仕事を。その後、地元の友人に室礼を教えてほしいと言われ友人宅で教えていたのですが、自分たちだけではもったいない、もっと多くの人に教えてあげたらと勧められ、ちはら台の公民館で講師をしました」。今回の室礼のイベントは大網白里市にあるアートエディター主宰の伊藤純子さんに依頼された。次回の室礼イベントは4月23・24日に今回と同じ会場にて『端午の節句』を開催予定。詳細についてはアートエディターへ問い合わせを(TEL0475・73・5929)
「四季の移ろいと共に様々な年中行事があります。こうした行事は日本人の暮らしの節目であり、人生の節目でもありました。けして敷居の高いものではありません。マンション暮らしの方なら、現代風にテーブルやサイドボードに、お盆に季節のものをしつらえればいいと思います。雛祭りや七夕など皆さん、意識せずにしていますよね。それを、どうしてこのように行うようになったのかも知って、日本人の守るべきものを見つけてもらえたら」と関さん。
 昨年末、『和食』がユネスコ無形文化財に登録された。この『和食』の4つの特徴のひとつに、正月などの年中行事との密接な関わりがあるという。昨今の和ブームで、最近、日本文化を見直す風潮が高まっている。今、私たちも先人たちの教えの宝庫といわれる室礼を、家庭で行ってみては。家族の絆も深まり、日々の暮らしも大切にするようになるのではないだろうか。

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