七十二歳のプロポーズ

遠 山 あき

 女性ばかり十人ほどの集まりだった。珍しくさまざまな職種を持つ仲間の集まりだったから、話題はピンからキリまであって、それはそれは楽しく、バラエティに富んだものだった。弁護士、会社経営者、農業、ただの主婦、開拓農家、宗教家、町会議院(当時の伊奈町)。会の掟は「みんな同じ女性、平等、人間仲間」。
 その日、いつも発言の少ない農家の主婦Kさんが、頬をほんのり染めて言った。彼女は長男四十一歳(独身)とふたりで葱や人参を栽培出荷している農家だった。
 「私、今年七十二歳になります。夫は三年前に亡くなりました。頑固で愛なんて全然無い男でしたが、五十年も一緒に暮らしました。それがねえ、ウーン、思い切って言っちゃうけど、私、去年の暮れに結婚の申し込みを受けたの」
 並みいるみんなは、一様にハーッと息を吐いて、身を乗り出した。「エーッ、誰から?」「恩師から」「じゃ、年配の人ね」「そう、三歳上。先生も奥さんを五年前に亡くしてる。中学三年の時の担任で、正直言うと、私の初恋の人だったの」
 みんな、わーと拍手!「それで?」「もちろん断ったわよ」「なぜもちろんなのよ。もったいない」「先生、可哀想」「夢も希望も捨てるの?」
 ワイワイ、ガヤガヤ、みんな勝手に感想を言い出してうるさいこと。「そんな嬉しい話!」「二度の春を期待しなかったの?」「いまさらね、息子の手前もあるし」
 おふたりとも七十歳を過ぎている。長命な現代と言っても、両人とも後期高齢者である。早晩限界がくるのは明らかだ。介護のための結婚? 人生最後の愛の燃焼? それは考えようかもしれないけど。五十数年の時間は、社会を、人間の内面を、どう変えているのだろう?
 しかし、その後もKさんは今までと変わりなく例会に出てくる。このごろは川柳に凝っているらしい。人生分からないものだなあ。私、今、九十七歳なんだけど。
 人、それぞれだ。自分の人生は自分のものだから……。

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