義足はカッコいい!リオ出場を目指して

パラトライアスロン選手 秦 由加子 さん

 パラトライアスロンが正式種目となる、今年9月開催のリオデジャネイロパラリンピック。大腿切断、義足という条件下では国内初のパラトライアスロン女子選手、市原市出身の秦由加子さんが出場を目指す。
 13歳のときに骨肉腫と診断され、右太ももを切断した。「両親が号泣する中、受け入れるしかないのだと比較的冷静に思いました」と当時を振り返る。手術後、義足に松葉杖をつきながら登校したが「義足を見られるのが嫌だった。なぜ自分がこんな目に?」と考えることも多かったという。
 OLとして働き始め生活に余裕が出てきた頃、幼少時代から大好きだった水泳を始めた。だが「泳ぐときは義足を外す。人の目が気になりました。潜っているときも周りからの視線を感じ、とても辛かった。コソコソ隠れながらの生活を変えたいと思った」そんな折、障がい者の水泳チームが新たに発足することを知り初期メンバーとして入会。両足や目、耳が不自由など様々な障がいを持った人たちが、生き生きと水泳を楽しんでいる姿を目の当たりにした。「コンプレックスとは自分が作り出すもの。なんて小さなことで悩んでいたのだろうと思った」考え方の転機が訪れた。その後4年間は水泳に打ち込み、『日本障がい者水泳連盟』の強化指定選手として国内外の大会に出場するほどに成長した。
 2013年にトライアスロンに転向したのは現在所属する『稲毛インターナショナルトライアスロンクラブ』のコーチから誘われて。障がい者の陸上競技チームの練習に参加、18年ぶりに走ったその日、体が宙に浮く感覚に感動し「風を感じるって気持ちいい。走るってこんな感じだっけ」と小学生の頃を思い出した。とはいえ、最初の1年間は義足との摩擦が痛くて100m走るのが精一杯だった。痛みを改善するため、義足の調整や練習を積んだ。自転車はコーチがつきっきりで教えてくれた。「障がいがあると、何かしようと思っても1人では難しいことが多い。私の周りには、何かしたいと伝えると手を差し伸べてくれる人が多く、恵まれた環境にあった。周りの人に感謝している」と微笑む。
 トライアスロンを始めてから義足への意識も変わった。それまでは義足の上に、足のように見える外装カバーを被せていた。だが義足の陸上選手は外装を着用していない人も多かった。外装を外し、嫌だった義足を逆にカッコいいと思い始めたのはその頃。「日常生活でも隠さず、見せても大丈夫だと思えるようになった」と自信に満ちた笑顔を見せる。
 パラトライアスロンはスイム750m、バイク(自転車)20㎞、ラン5㎞の順に続けて行い、速さを競う。スイムは海、川、沼など自然の中で行うため開放感が気持ちいいのだとか。
 練習に励み、競技大会での健闘が認められた2014年には日本トライアスロン連合パラトライアスロン強化指定選手となった。昨年5月に横浜で行われた世界パラトライアスロンイベント(WPE)ではバイクで大差をつけ、ランで逃げ切ることに成功、優勝を勝ち取った。「お世話になった人たちが沿道から声援を送ってくれた。プレッシャーはあったがとても嬉しかった」
 現在、世界ランキング8位。4月の広島でのアジア選手権とオーストラリアで行われるWPE、5月の横浜でのWPEでポイントを稼ぎリオデジャネイロパラリンピックへの出場に王手をかける。昨年8月、バイクの練習中に落車、鎖骨と肋骨を骨折したが「今年3月のWPE(南アフリカ)で復帰することができた。コツコツとやってきたので自信はある。リオパラリンピックでの戦いに照準を合わせて調整していきたい」と手応えを見せる。
 千葉県内の企業でフルタイムで働く傍ら、就業前後の数時間と土日は練習に励む毎日。「市原市は自然が多いので好き。田んぼ道でのトレーニングは心地いい。昨年は地域の運動会に参加し、地元の子どもたちの前で走る姿を披露できた。障がいを持つ人と接する機会が増えれば、健常者も義足や障がいを受け入れやすくなると思う。また、トライアスロンを楽しんでいる私を見て、障がいを持つ人が勇気を持ってくれたら。感動を共有できるスポーツが、障がいに対するハードルを下げる入り口になれば」と表情を輝かせる。(礒川)

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