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陶芸で疲れた心にふっと癒しの空気を
- 2016/5/20
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陶芸家 渡辺 清美 さん
市原市皆吉の自宅離れで、陶芸家の渡辺清美さん(56)は作品制作に取り組みながらセラピーをして人の心を癒している。「陶芸を始めたのは40歳の時です。長年公務員として働いていましたが、突然病に襲われ辞職しました。一生懸命仕事をしていたからこそ、辞めたことでぽっかりと大きな穴が心に空いてしまったんです。そんな時、ふと陶芸をしてみようと外房の工房へ体験に訪れた」という窯が、現在の渡辺さんを形作る初めの一歩だった。「好きなものを作りなさい」と講師に指示され、お皿やカップ、置物を作ってはみるものの『まだ喪失感を埋められていない』と感じた。
だが同時期、自身の心のケアをするためにカウンセリングを受けたことで、心理学を学ぼうと決意しカウンセラーの資格を取得したことも良い影響をもたらした。次第に活力を取り戻し、自宅離れにカウンセリングスペースを開設。陶芸制作をするための電動ろくろやテーブルなどはもちろん、室内には渡辺さんの作品が整然と並べられている。
「あまりお皿に興味はなく、ネコやフクロウ、ウサギなどの動物を作ることが多いです」と渡辺さんが話す通り、今にも動き出しそうなほどリアルな姿はとても可愛らしい。ほほ笑みを浮かべて手を伸ばす猫たちは大きな置物で、眺めているだけで癒されるようだが、それも「私の心がなごやかになったから」だと振り返る。朗らかに笑い、巧みに話す彼女からは想像できないが、制作当初は自分を見失っていたという。落ち込んだ想いを吐き出すように土に込め、数百以上の作品を焼きあげた頃には人との縁や繋がり、ぬくもりに感謝できるまでに回復していた。
「土を触るのは、とっても気持ちが落ち着きます。私は釉薬にこだわったり、大層な皿を作りたいという気持ちはないんです。どの釉薬を使ったらよりウサギや猫などの作品が生きるかは考えますが、陶芸家という気負いはなく『物を作るおばさん』くらいが丁度いいかな」と親しみを持った笑顔で話す。形を思い浮かべられるものは作れる、と制作前には必ずデッサンをする。今では5冊になったデッサン帳は宝物で、普段記憶の彼方にあるものでも、絵を見るだけですべて鮮やかに思い出せるのだとか。
今まで千葉市や睦沢町内のギャラリーで個展や販売を行ってきたが、その中でも市原市内で開催されたアートミックスで大好評だった作品たち。内田未来楽校に置かれた作品を求めて、翌年に再来した観光客もいたほどだ。また、「反響があったことは自信に繋がりましたが、色々とアドバイスをいただけることもあり勉強になりました」と向上心も忘れない。
そんな渡辺さんが目指すのは自身の作品制作だけでなく、『アートの癒し』。近年、病気の治療やストレスの緩和に様々な手法が見出されている。土に触れることは人間にとってプラスの効果があると言われているのは事実で、渡辺さんは「陶芸をして、心が自然と開く。その後、お茶をしてゆっくり話すことで、悩みが短時間で解決することもあるんですよ」と経験を話す。初めは悩みを吐きだすことに夢中でも、ふと棚に目を向けると動物たちが笑っている。「これ、どうやって作ったんですか」と興味を持ってもらえたら、まず一歩。「君津の方から来てくれる方もいます。落ちこんで来ても、笑顔で帰す!私流です」という渡辺さんは、近所の牛久小でボランティアにも励んでいる。
小さい子どもを持つママの悩みも聞き、若い世代との交流は自身の作品にも生かされるとか。朝起きて、家事を済ませると離れに移る。暖かい日差しと小さく流れるラジオの音の中、山あいに心地良い時間が訪れる。
静かに刻むろくろの音とともに、渡辺さんは「制作しやすい環境をくれる夫には感謝です。私達には子どもがいないのですが、作品みんなが愛しい子ども達です。制作時に気を付けているのは、最後のひと手間まで手を抜かないことですね。これからは大きなオブジェも作ってみたいですし、色んな猫の種類に挑戦したいです」と意気込んだ。これからも多くの動物たちが離れの棚に仲間入りしていくことだろう。
8月7日から28日まで睦沢町のギャラリー801で作品展を開催予定。作品の購入、陶芸カウンセリングを含め詳細は問合せを。
問合せ 渡辺さん
TEL 090・1437・2531