祝第44回毎日農業記録賞優良賞受賞 伝統あるナシ園復活 僕たちの取り組み

千葉県立鶴舞桜が丘高校 食とみどり科

 農、食、農業に関わる環境への関心を高めるとともに、それらに携わる人たちやこれから携わろうとする人たちを応援するために設けられた毎日農業記録賞。農業や環境への思いや体験、提言をまとめた応募作に与えられる。昨年11月、千葉県で1位となる高校生部門中央審査優良賞を受賞したのは県立鶴舞桜が丘高校食とみどり科の果樹コースの生徒たち。「嬉しい」と喜びを話す8人は、昨年6月ごろから他の大会の発表準備や収穫作業の合間に文章を持ち寄って『ナシ復活プロジェクト テデトールによる黒星病撲滅作戦』を3カ月ほどかけて仕上げた。
 平成17年に県立鶴舞商業高等学校と県立市原園芸高等学校が統合され10年を過ぎた鶴舞桜が丘高校。ブルーベリー、ウメ、モモ、イチジクなど11種133本の果樹が植えられた同校グリーンキャンパスの果樹園の歴史は古く、中心となるナシの樹齢は50年ほどになった。ところが、老木となった木はキノコ類の菌糸が入り、黒星病が蔓延し、壊滅状態。生徒たちは、フルーツのまち市原市にふさわしい学校果樹園を復活させようと病気の撲滅に取り組んだ。
 黒星病とは植物の茎や葉、実に小さな黒い斑点が現れるカビが原因の病気。防除には薬剤散布、落葉処理など複数の対策を行うが、瀕死状態のナシの樹に対しては薬剤散布の合間にも黒星病が広がり、効果が望めなかった。果樹コースの責任者で3年生の森下裕生くんは「薬剤噴霧用車両だけでは細部まで薬剤が届かないことも問題でした」と限界を話す。JA市原市梨共同選果場で専門家に「菌を園の外に持ち出し、処分することが一番大事」とのアドバイスを受け、病気の実や葉を取り除くことからはじめたのは平成26年度。翌年には収量が増えた。
 平成27年度、本格的に計画を立て行動を始めた。2年生の佐野颯哉くんが「えーめんどうだなと思いました」という作業の名称は手で取るから「テデトール」。頭には帽子、腰には取った実や葉を園外に持ち出すためのビニール袋と摘果バサミを装着する。作業中に罹病部分に触ってしまうとそこから病気を広げてしまう。菌が手に付かないよう細心の注意を払い取り除く。生徒たちはミッションを遂行する「黒星病バスターズ」となった。
 「春の摘果は2回。1カ所からいくつも出た実を取り除き、1カ月後に再び大きくて良い実を1個残します。その間にも黒星病の退治です」という3年生の山口美咲さんの言葉は、果樹の世話とともに防除を行う忙しさを想像させる。3年生の榎並勇人くんは「果樹園は風通しがよく葉陰ができるので夏もそれほど暑くありません」というが、飛び立つセミにおしっこをかけられたり、実習服がドロドロになったりと苦労もあった。収穫後は落ちた葉や実を集め、冬には病害虫の温床となる粗皮を専用の鎌で削り、周囲の地面に穴を掘って肥料を入れる。体力には自信があるという3年生の石川龍也くんでさえ、「作業は大変でした」と振り返る。しかし、「木の状態がだんだん良くなるのがわかりました」と佐野くん。
 収穫作業では「やっと販売できるとやる気が出ました」と3年生の松村藍美さんは嬉しそうに語る。朝採った果物を袋に詰め千葉県循環器病センター、特別養護老人ホーム緑祐の郷、同校文化祭『桜祭』などで販売すると「おいしかった」、「もうないの」と声をかけられ手ごたえを実感。卒業生に「まだナシの木あるの」と聞かれると胸を張って「あります」と答えられた。2年前に比べると平成28年度には病気は10分の1以下に減少、収穫量は3倍以上。ナシ園は完全復活を果たした。2年生の増田武蔵くんは「頑張れば、結果が残せるとわかりました」と話す。
 今の果樹コースに農家出身者はいない。果物が好きとか、資格が取れると専門コースに進んだ生徒ばかり。担当教諭の中田滋己さんも「実は私も果樹は専門外。果樹の専門家のいる茂原樟陽高校や大原高校で教えてもらいました」と明かす。手探りで進むなか、「この生徒たちと一緒にチャレンジできて幸せでした。素直で明るく、やるときにはやってくれました」と感慨深げ。「果樹は10日ほどの収穫期のためにあとの355日を世話に費やします。人の生き方に通じています」と樹が教えてくれたものの大きさを語った。今後は改植や新規果樹の栽培試験、受粉を助ける日本ミツバチの飼育も手掛け、梨園を管理していく予定だという。

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