ガンをきっかけに勝浦市へ移住 笑いで乗り越えたい

落語家 入船亭 扇海さん

 東京都足立区生まれの入船亭扇海さん(65)。自然豊かな勝浦市に移住したことについて「シャケが生まれた川に戻ってくるようなものです」と笑顔で話す。「58歳のとき、すい臓がんと診断され、子どものころの楽しい思い出が残る父親の実家があった土地で、畑を耕し、自給自足で暮らすことにしました。人は土に返ると言いますでしょ」。さらに「噺を聞いてもらえれば最高」と自宅を落語とジャズが聞ける寄席『勝浦らくご館』として改築した。
 子どものころ、勝浦へは両国発の外房線の蒸気機関車かディーゼルカーに乗って帰省した。「大網白里駅(現大網駅)で列車が進行方向をかえるためスイッチバックするのや、トンネルで窓を開閉するのを見るのが楽しかったなあ」と乗り物が好きだった子ども時代に戻ったように目を輝かせる。到着すれば山では昆虫、川ではシジミや魚を採って遊んだ。海水浴は1時間かけて歩き鵜原海岸へ。「帰りに乗るバスは、曲がりくねった砂利道の坂を崖から落ちそうになりながら上るんですよ」とほのぼのとした口調で語る。
  欧米文化に影響され、高校を卒業してからはジャズプレーヤーになるつもりで、プロのフルバンドでベースを弾いた。「米軍基地で演奏したときのアメリカンコーヒーやハンバーガーに感動しました」。22歳のとき、歌手の桜田淳子さんのバックで演奏したのを最後に、フルバンドをやめ、父親が抑留されたソ連を見たいと、シベリア鉄道を経てヨーロッパや北アフリカへ。「明日の予定のないバックパッカーの旅でした。ずっといたかったな」。帰国後、日本の伝統芸能に目を向けるようになり、小沢昭一さん主宰の芸能座の劇団員となった。自然に対する感性が豊かで牧歌的な話をする9代目故入船亭扇橋師匠に傾倒し、入門したのが24歳のとき。41歳で真打になった。
 「がんは58歳のとき、たまたま見つかりました」。ある日、ふくらはぎが張るような感じがして開業医に診察をしてもらうと坐骨神経痛と診断された。しかし、夏場にもかかわらず頻尿となり、症状は改善しないまま。1年後、「前立せん肥大かもしれない」と大学病院へ行くと、すぐに入院することになり、2週間後に病名が判明した。すい臓がんは見つかりづらく、症状が出てからようやく発見されることが多い。「うそー。死ぬには早いと頭が真っ白になりました」
 手術をしたらリンパ節にも転移があり、13カ所も摘出するステージ4。「笑いは免疫力を高めるというのに自分は笑っていなかったのかなと思ったり、がん患者を対象にした講演会に出かけたりしました」と当時の落ち込んだ気持ちを飄々と話す。しかし、高い技術を持ち、優しく思いやりのある担当医に恵まれた。「長生きできないでしょうねって聞いたら、死ぬまでは生きるでしょうと言っていました」と笑う。
 その後、免疫力が落ち、非感染性結核(非定型抗酸菌症)、帯状疱疹、急性胆管炎なども発症。「周囲は知っていましたが、落語家として勝負したいと思っていましたから、あえて高座で病気の話をすることはありませんでした」。ただ、入院中に患者用リストバンドをしたまま都内の保健所でがんの講演をし、客に「あっ病院から来た」と言われたことはある。今年2月、がんが肝臓に転移し手術。別の医師から「みなさんを励ますことがあなたの使命ですよ」と言われ、「新聞で公表したら、早速、問い合わせの電話がありました。病気の人の光になれたらいいです」
 すい臓がん患者の5年生存率は7%。「東大に受かるより難しいですよ。明るすぎて本当にがん患者かと疑われたこともありました」と前向き。2年前、心不全となり、心臓に負担のかかる畑仕事はやめ、同市守谷から交通の便のよい同市出水に引っ越した。自宅隣の40席ほどある『勝浦らくご館』で毎月第1土曜日『勝浦土曜寄席』(木戸銭千円)を続け、今も多くの人を楽しませている。ジャズ演奏者も募集中だ。また、(社福)みずほ園から委託を受けて苗を70円で予約販売している。「今日一日を心穏やかに過ごし、世のため人のために生きたい」
 2014年にオープンした勝浦市芸術文化交流センター(キュステ)では林家木久扇師匠、林家正蔵師匠ほか豪華な出演者を招き、年3回『勝浦落語会』を開き、毎回数百人を集めている。「出演依頼、ポスター作り、集客もやるプロデューサーです」。次回、『第8回勝浦落語会』は10月8日開演12時半より。全席指定S席2千8百円A席2千3百円。出演者は市原市出身の桂米助師匠ほか。

問合せ 勝浦落語会
TEL 070・1480・2649

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