農業で障がい者が活躍できる場を

~更に特産品創出で、まちおこしの一端を担えたら~
『NPO法人ジョブファーム・かえもん農園』代表 高橋 正己 さん

 これまで障がい者就労支援施設での仕事は、袋入れなどの工場の下請け作業やクッキーなどの食品製造が主だったが、ここ数年、農業活動に取り組むケースが増えている。高齢化が進み、後継者不足が深刻な農家にしてみれば、人手の確保と生産力向上が期待でき、障がい者にとっては働く場が広がるという、どちらにとっても利点が大きいことで注目を浴びている。このような『農福(農業と福祉)連携』を推し進める動きが各地で活発になっている。
 大網白里市でも、2011年に「農作業を通じて障がい者の就労を支援しよう」と、NPO法人『ジョブファーム』が設立された。代表の高橋正己さんは、埼玉県にある大学卒業後、船橋市から母親の実家がある大網白里市へ移り住んだ。農家だったが後継者がいなかったため、養子に入り家業を継ぎ、米作りの傍ら地元の障がい者施設で働いた。そのとき、「障がい者の彼らのできる仕事がないものか」と考え、たまたま農繁期に施設の利用者に作業を手伝ってもらい、「お駄賃」を渡したら、とても喜ばれたことが、農福連携事業を始めるきっかけになったという。高橋さんは「働いて謝礼を得ることで、自分も役に立ったと自信がつく。農業は1年を通じて色々な作業工程があり、障がい者が各々の能力や特性に応じて働くことができ、達成感や充実感も得られる」と話す。
 その後、大網白里市で知り合った女性と結婚し、2人の子どもと叔父、義母との6人暮らしを送っている高橋さん。彼が運営するジョブファームに通う訓練生は、知的障がいや精神障がい、発達障がいの18歳から30代の男女10名。その大半は特別支援学校の実習で訪れ農業体験をし、卒業後、農業をやりたいと通うようになった。市内はもとより千葉市やいすみ市、東金市などからも通って来る。送迎は東金駅から大網駅経由事業所行きと、大網駅から地元の団地(住宅地)経由事業所行きの2便を運行。スタッフは高橋さんを含め4名と、ボランティアやパート数名。奥様も育児や介護の合間を縫ってジャム職人として加工品づくりをしている。
 訓練生の皆さんは、土日祝日を除く平日の朝9時に事業所へ集合。タイムカードを打刻し朝礼後、スタッフが運転する車に乗り込み、その日の作業場へ向かい、スタッフと一緒に作業する。昼、事業所に戻り、自分たちが育てたコシヒカリ米を使った食事を摂り午後の作業。15時30分終了。作業内容は、水稲・無農薬の酒米栽培や夏野菜・イチゴ栽培等。最初は水稲づくりからスタートし、無農薬で栽培した酒米をいすみ市の酒造会社・木戸泉とコラボして自然派特別純米酒『幸SACHI』の製造を。次に、市内の元千葉県農林総合研究センター所長・成川昇さんが退職後、個人で研究を重ねて作った新品種のイチゴ『真紅の美鈴』の栽培とジャム作りを。
 オリジナルのブランド日本酒や珍しいイチゴを地域の特産品としてアピールし地元に貢献したいという願いと同時に、訓練生が様々な仕事の体験ができるように、次々と新しいことに挑戦を続けている。サトウキビ堆肥の開発と、これを使用することで目指した高品質のイチゴ作り。イチゴ栽培後半から同じイチゴハウスにメロンを作付ける。また、乱獲により激減し(絶滅が危惧される)県指定の絶滅危惧種となった市内白里海岸に自生するハマボウフウの栽培。無添加のジャム作りにとレモンやブルーベリーの栽培。地球温暖化を考慮し数年先を見据え「今まで関東では栽培できなかった南方のものもできるようになるかもしれない」とコブミカンなど色々な果樹栽培も始めている。
 他、請負作業として、コイン精米所の掃除や福祉施設や家庭の草刈り、お墓の掃除や農作業全般等、地域住民からの依頼を格安で請負う。こちらもスタッフと共に現場や家庭に出向く。最近では高齢化の進む近隣周辺から「共同墓地の手入れを」などの仕事(作業)依頼は「ひっきりなし」状態。大網白里市のふるさと納税返礼品にも加えられた「色・味・香り・栄養素、どれをとっても濃厚」なイチゴ『真紅の美鈴』の売れ行きも上々で生産体制も倍にした。
 『幸SACHI』の販売元として酒販免許を取得した高橋さんが『かえもん農園』名義で日本酒をはじめ加工品などの通販も開始。今後の目標について、「ジョブファームと、かえもん農園の二本立てで、生産から加工、流通・販売まで手がける6次産業化を目指します。ビニールハウスの多い白里地区からの作業依頼が多いので、空き家対策を利用して事務所を増やし、ワンボックスカーを起動し、近隣農家を助けたい。農家の仕事は波があるから、年間通してコンスタントに農家からの仕事を得て、安定して訓練生に仕事を提供していきたいですね。農福連携に加え地域との連携も視野に入れて、ハマボウフウのブランド化と保全のために苗の栽培と食材の提供を。日本酒については、近隣の一宮町が東京五輪のサーフィン競技会場となるので、外国人観光客の土産品にすることも目標にしています」と熱く語る。
 尚、今年の新酒販売は3月中旬を予定。イチゴは5月頃まで。イチゴは市内の飲食店(スイーツ店)などでメニューに盛り込まれ味わうことができる。

問合せ ジョブファーム・かえもん農園・高橋さん
TEL 090・1692・6957

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