妖怪たちは、いつもあなたの心の中にいる

小説家 京極夏彦 さん

 2月21日(水)、市原市勤労会館(youホール)で開催された『平成29年度 文学講座 特別講演会』。今回は直木賞受賞作家でもある京極夏彦さんの講演とあって、午後2時の開演時には3階多目的ホールが超満員となった。京極さんは1963年小樽生まれ。1994年に『姑獲鳥の夏』でデビュー。2004年に『後巷説百物語』で第130回直木賞を受賞した他、第25回泉鏡花賞や第16回山本周五郎賞なども受賞している。
 妖怪を題材とした小説を多く出版しているが、作風はミステリーや怪談、ギャグをふんだんに盛り込んだものまで多岐に渡る。特別講演会では『書物と妖怪』と題して1時間、彼の言葉に対する思いが語られた。
 「私は早生まれで、子どもの頃は周りの友達に比べて身体も小さく苦労しました。学校は楽しかったんですが、子どもながらに生きづらさを感じていたんですね。動物は生きるためだけに精一杯生きている。だが、人間は動物が生きるのに必要なことプラスα、社会・文化的な問題を抱えています」と、京極さんの話が始まる。
 プラスαの部分の多くは言葉でできており、その『言葉』は書物・妖怪と繋がっているという。なぜだろうか。すべての人間は1人の祖先のDNAのコピーだ。だが、複製をくりかえすたび、失敗=バグは生れる。人間はその個体差=バグを個性と捉え、一人一人違うと主張する一方、他人と違うことを認めたくないという臆病な性質も持っている。「その矛盾を『言葉』が埋めてくれた。言葉は、概念です。言葉がなければ私達の社会はここまで発達しなかったでしょう」と、京極さん。
 ただ、言葉は必ずしもそのもの自体とリンクしているわけではない。『さくら』が馬肉をも表すように、言葉は多くの概念と関連付けられている。そのあいまいさが、コミュニケーションを成立させている。人間は言葉の不足した部分を自分に関連付けて納得し、都合よく補いながら理解している。同じなのに違うという矛盾は、言語化することによって意識されないまま解消されてしまう。
 それは書物も同様で、「言葉で書かれている本には隙間があるんです。どうして読書が面白いのか。それは読者自身が想像力を使ってそれら言葉の隙間を埋めているからです。想像力は自身の体験に基づいて生まれます。だから小説を読んで、想像して、感情が動く」のだとか。そして、『妖怪』も概念なのだ。実際にこの世にはないけれど、存在する。言葉がなければ概念もない。それと妖怪も同じだという。
 日本人であれば一度は耳にしたことがあるだろう砂かけ婆や子泣き爺。そんな妖怪は漫画やアニメの画像に登場する『キャラクター』だ。かつて妖怪は、理由が分からないけれど起こる現象や、物を知らないがための都合の悪さを皆で納得するための安心材料として存在していた。家の中に人の気配がする。誰もいない。そうだ、これは座敷童子が遊んでいるのだと思うだけで、すっかり心もとなさは消えてしまう。妖怪は集団の中で生じる言説そのものだったが、いつしか小説やテレビアニメ化されることで全国的に有名となり、キャラクターへと進化した。
 「妖怪は言葉と同じく、実体がないのに存在するものです。妖怪は怖いだけのものではありません。愉快で楽しく、時に悲しい。その人の人生が反映するんです」と妖怪への愛が溢れる講演内容に、来場者は時に笑い、時に大きく頷いた。そして、彼は「人生に生きづらさを感じた時や辛い時、妖怪に気持ちを託し、書物に触れてみてください。読んだ分だけ何かが出てきます。彼らは、必ずみなさんを助けてくれます。答えを出せるのは自分です。読み取ったものが自身であるなら、それがみなさんのこれからの指針になるでしょう」と締めくくった。
 どこにいても簡単に別の世界に連れだしてくれる仲間たちに、会いに行ってはいかがだろうか。

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