メキシコに感謝 恩返しの種まきを御宿で

ヴァイオリニスト 黒沼ユリ子さん

 JR外房線の御宿駅前通りに、群青色の壁にえんじ色の窓枠という、際立って目立つ家が建つ。黒沼ユリ子さん(78)が所有する「黒沼ユリ子のヴァイオリンの家・日本メキシコ友好の家」だ。黒沼さんは3年前、40年間住んだメキシコから帰国。静かで暮らしやすいと、御宿町に転入したが、老後を一緒に楽しむはずの再婚した夫が突然亡くなってしまった。そこで何か一つくらいは楽しみを持ちたいと、ロペス通り(駅前通り)に見つけた空き家を購入。全面的に修築し、思い出深いメキシコ文化の紹介や人の交流の場として一般開放した。
 黒沼さんは世界で活躍したヴァイオリニスト。桐朋学園高校在学中の18歳の時、チェコのプラハ音楽アカデミーに留学し、首席で卒業した。20歳の時、メキシコ人で文化人類学者の最初の夫と結婚し、それを機にメキシコに移り住んだ。そして演奏活動をしながら、地元の子ども達にヴァイオリンを教えていたが、一人で教える生徒の数に限界を感じ、40歳の時、『アカデミア・ユリコ・クロヌマ』という弦楽器専門の学校を設立。生徒12人と共に1985年に来日し、日本とメキシコの友好コンサートを開催したこともあった。
 「最初は縁もゆかりもないと思っていた御宿ですが、約400年前、御宿町の田尻海岸沖で難破したメキシコの船の乗組員を村民が献身的に救助したことを知りました。日本とメキシコの交流の始まりです。しかし御宿町がメキシコのアカプルコと姉妹都市になっている事も、駅前通りが来町したメキシコ前大統領の名前からロペス通りになっている事も、地元の人でも知る人が少ないことに驚きました。それで長く住み、私の人生に多大な影響を与えてくれたメキシコをよく知ってもらいたいと考えました」

御宿の中のメキシコ

 家の外壁は、20世紀を代表するメキシコの女流画家の家と同じ色にしたいと、塗料のサンプルをメキシコから持ち込んだ。外見も目を引くが、中に入るとすぐに階段があり、2階に続くその空間は、太陽をイメージしたような明るい黄色。そしてカウンターがある1階はメキシコの文化を紹介するフロアで、色鮮やかな民芸品やメキシコに関する書籍が置かれている。
 2階は亡くなった夫のコレクションで、600体以上のヴァイオリンを弾く人形を展示。毎年メキシコの自宅から持ち帰っているので、その数は今後も増えていくそうだ。そしてこの家を購入する一番の動機づけとなった3階は、木の温もりがあり、音の響きが良いと、メキシコの作曲家の名前から『ポンセホール』とし、小さなコンサートや講演会、DVDでオペラや映画を楽しんでいる。 
 また黒沼さんが講師として、月2回、スペイン語を無料で教える『サンゴの会』も開催。このサンゴの意味は1回で3語のスペイン語を覚えるという趣旨だが、言葉だけではなく、侵略された側の立場からの歴史や世界感、「どんどん話に枝葉がついて長くなってしまう」という黒沼さんの楽しいトークに集まるのは、地元の人だけにとどまらない。
 黒沼さんはメキシコに住んでいた時、数々の著書を出版したが、その受け皿になっていたのは、姉の俊子さん。「FAXも無い時代でしたから、飛行場で受け取った原稿を出版社に届けたり、ユリ子が日本で演奏する時の準備も私がしました」と俊子さん。俊子さんは30年間、コンサートをマネージメントする会社に務めたが、現在は黒沼さんの個人事務所の代表となっている。
 昨年7月には非営利一般社団法人と一して認可を受けた。相変わらず、どこからも援助を受けずの活動だが、俊子さんやボランティアの協力で、土・日・祝日にはヴァイオリンの家をオープンする。予定が合えば、平日でも家を開けるのは可能との事。これまで何度かメキシコの人々の手作り工芸品や衣料品を販売する市や、黒沼さんのメキシコの自宅に何泊かするというメキシコ旅行も企画している。
 9月29日(土)14時から「黒沼ユリ子のヴァイオリンの家・日本メキシコ友好の家」オープニング2周年記念として弦楽四重奏をポンセホールで。翌日は町内にある施設にてヴァイオリンリサイタルを予定。詳細は黒沼さんまで。       

問合せ 黒沼ユリ子のヴァイオリンの家・日本メキシコ友好の家 
(土)(日)(祝)のみ11~16時。
入館料なし
TEL 0470・62・5565
casa.violin.930@gmail.com

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