子どもの墓の記憶を頼りに

 市原市青柳台の光明寺の裏手には、かつて子どものみを弔った墓がある。住宅街から小道に入り、小さく拓けたその場所に並んだ墓標は100以上。如意輪観音など仏の顔や文字がきちんと残っているものばかりとは限らない。砂で作られた墓石は小さく、そして風雨に長年さらされたことで大きく溶けたものまである。  「昔、子どもは宮参りをする7歳までは神様からの授かりの子、すなわち神の子とされていました。そして子どものためだけの共同墓地があったんです。13から15歳で初産をし、35歳くらいまでに5人くらいの産むことが多かった女性。それだけ疫病などで命を落とす確率が高かったんですね」と話すのは、市原市北青柳在住の小倉澄夫さん。   出羽三山や富士山における山岳信仰についての歴史に詳しく、千葉県立中央博物館でボランティアガイドを務めることもある。檀家である小倉さんに、寺の住職から子どもの墓について調査の依頼が入ったものの、「調べることは大変困難」だという。江戸時代の頃から使われていたであろう、青柳台の子どもの墓。
 しかし、墓標の文字から詳細を読み取ることは難しい。「昭和30年代に、子どもの墓に関して歴史研究家の谷島一馬先生が調査をされていました。成田の方にもあったようですが、やはり詳細は不明のまま。昭和40年代まで西青柳にも存在していたようですが、区画整理で新道ができたために、現在は所在不明となりました」と小倉さん。
 青柳台の子どもの墓は、千葉県内でも唯一残っている場所だとか。生まれも育ちも北青柳の小倉さんは、子どもの墓に最後に入った女児と同世代だった。「昭和28年8月でした。海で溺れたという女児の葬儀に参列したのは初めてで、先生の指示で小さなお墓に手を合わせて焼香しました」というが、当時は篠竹に囲まれた場所で多くの盛り土があったとか。今でもお参りする人はおり、墓標の前には小さな白い花が供えられているものも。
 また、子どもの墓に多く見られる如意輪観音は、隣町の西青柳にある寺でも19体保管されている。「如意輪観音は女性と表象されることが多く、これは大多喜城下より北上して伝わった熊野信仰の影響もあるそうです。熊野信仰は念仏を唱えて、血の池地獄に落とされる女性を救済しようとするもの。子安講と同じように十九夜講が行われてきました」と、小倉さんは続ける。
 満月から4日後の19日の月は少し傾き、如意輪観音に似ているという。昨年は北青柳地区で、12年に一度の酉年に行う19度参りの巡礼をした。参加地区は減少しており、かつての風習は廃れつつあることも否めない。しかし、同じ地域にいくつもの信仰が残ることも、市原市が他方からの人や風習を受け入れやすい体質だったといってもいいかもしれない。
 「青柳辺りの川辺には、江戸時代には五大力船もやってきたんです。子どもの墓を含め、何かをして欲しいわけではありません。こんなものが地元にあるんだということを、少しでも知ってもらえたらと思います」と、最後に小倉さんは語った。

問合せ 小倉さん
TEL 090・4434・3938

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