一からの春

文と絵 山口高弘

大きい!初めて行ったアメリカの店で、ジュースを頼んだ時の感想です。一九九五年、僕は中学生。市原市の姉妹都市・モビール市の家庭にホームステイする機会に恵まれ、全てが大きい国の、おおらかな日常に驚いていました。僕は簡単な英語しか話せない『外国人』でした。
日本語のない生活に多少は慣れてきたある日。ステイ先の同年代の男の子に呼ばれました。「野球やろう!」打ち解けるには…野球選手のモノマネしかないよな。僕はその時メジャーリーグで大活躍していた野茂英雄投手を真似て、「ノゥモ!」と体をねじって投げました。彼は笑い、「チッパージョーンズ!」と言って打ちました。アトランタ・ブレーブスで活躍した両打ちの打者、野茂のライバルです。
僕が打つ番になりました。次は誰を真似ようか。当時、メジャーに日本人打者はいませんでした。そうだ、あの選手を教えよう。僕は肩を回してバットを立て、こう言いました。「イチロー・スズキ!」「…誰?」男の子に聞かれ、僕は中学英語を組み合わせて大風呂敷を広げてみました。「日本一の野球選手だよ。二百本ヒットを打つんだ。いつかアメリカに来て成功する。覚えておいて!」イチローの真似が効いたのか、僕の打球は庭の奥の茂みまで飛んでいきました。
時が経った今、あの時の僕を彼は覚えていないかもしれない。でも、もうイチローを知らない筈はないでしょう。アメリカ全土で、世界中から来た大男たちが人生かけて投げる球を、三千回も打ち返したのだから。
イチローが引退しました。新元号元年も始まります。変わらず春はやってきて、新しい人との出会いもあって。「何千」とは言わなくとも、一つ二つと積み上げて生きようと、何となく思います。

☆山口高弘 1981年市原生まれ。
小学4年秋~1年半、毎週、千葉日報紙上で父の随筆イラストを担当し、本紙では97年3月~イラストやエッセイを不定期連載。

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ

今週のシティライフ掲載記事

  1. 3月25日、茂原市国府関の茂原街道沿いにフットサルコートを併設したサービス付き高齢者向け住宅『ファミリークラブあかね雲』がオープンした。フッ…
  2.  八千代市大和田新田にある京成バラ園では、6月13日(日)まで春のシーズンイベント『スプリングフェスティバル It's so in Bloo…
  3.  新型コロナウイルスのパンデミックのなか、2020年6月15日にスタートしたインスタグラム・プロジェクト「Artists' Breath」(…
  4. シティライフ編集室では、公式Instagramを開設しています。 千葉県内、市原、茂原、東金、長生、夷隅等、中房総エリアを中心に長年地域に…
  5. 世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、アフリカの状況はどうなっているのでしょうか? ルワンダの首都キガリで幼稚園と小学校を設立し、…
  6.  山武市と東金市の境に位置する『成東・東金食虫植物群落』。大正9年(1920年)に日本で初の国天然記念物の1つとして指定され、昨年100年を…
  7.  睦沢町の田園風景のなかに建つ、ギャラリー801。様々な分野の作家が作品を出している常設展と、毎月3週間ほど開催される企画展を行っている。今…
  8.  3月20日(土)から4月5日(月)、及び4月17日(土)から5月16日(日)の2期間にかけて、千葉市中央区にある千葉市科学館では『ポップア…
  9. [caption id="attachment_38464" align="alignright" width="350"] 作業小屋兼ギャ…
  10.  3月の山を歩いていると赤いヤブツバキの花が目立ちます。虫のいない時期ですが、野鳥たちが蜜を目当てに次々と訪れています。椿の花は花びらと雄し…

ピックアップ記事

  1. 3月25日、茂原市国府関の茂原街道沿いにフットサルコートを併設したサービス付き高齢者向け住宅『ファミリークラブあかね雲』がオープンした。フッ…

スタッフブログ

ページ上部へ戻る