- Home
- 外房版, 市原版, シティライフ掲載記事
- 魅惑の写実絵画 スペインと日本の出会い ホキ美術館【千葉市緑区】
魅惑の写実絵画 スペインと日本の出会い ホキ美術館【千葉市緑区】
- 2019/8/1
- 外房版, 市原版, シティライフ掲載記事
- 内房, 外房
千葉市緑区のホキ美術館では、『スペインの現代写実絵画―バルセロナ・ヨーロッパ近代美術館(MEAM)コレクション―』を、9月1日まで開催している。ホキ美術館は2010年11月、世界初の写実絵画専門美術館として開館した。一方MEAMは、ヨーロッパで唯一、写実を対象とした美術館。17世紀の宮廷画家ベラスケス、18~19世紀のゴヤなどから、写実の伝統が受け継がれるスペインに2011年6月、オープンした。
期せずしてほぼ同時期に誕生した2つの美術館は、昨年と今年、互いの国でそれぞれの作品を紹介する交換展を行なうこととなった。まずは、日本スペイン外交関係樹立150年だった2018年。記念イベントの一環として、MEAMでホキ美術館のコレクション60点が紹介され、現地マスコミにも連日取り上げられ盛況をよんだ。そして今回のホキ美術館でのMEAMコレクション展。所蔵される500あまりの作品から59点が選ばれ、来日した。巨匠ゴルチョ、ナランホから若手30代まで、現役スペイン作家59人の絵画作品で、2005年から開催されている具象作品のコンクールFIGURATIVAS(フィギュラティブ)大賞受賞作、入賞作も含まれている。いずれも日本初公開。本展では、昨年スペインで発表した原雅幸・五味文彦・諏訪敦・石黒賢一郎・塩谷亮の新作5作品を含む日本作品も展示している。
写実絵画はただ単に『リアルに描かれた絵画』ではない。写真の場合、カメラは単眼レンズなので焦点以外はピントがぼやけるが、人間は2つの目の視差で立体感を感じ、見えるところはどこまでもピントがあう。人間の目で切り取った画面と長い時間をかけて向き合い作り上げる絵画には、細密に描かれている場合その技術力に驚かされることは多々あるが、それだけではなく、画家の視点・人柄が色濃く反映される。現実の風景や人物を、実物と見紛うかのように描くだけではなく、それぞれの作家の表現したい世界を描いているのである。
展示されているスペイン絵画は、老若男女の人物、風景、静物、作者の頭の中のイメージと、描かれる対象はバラエティに富み、実ににぎやか。「スペイン作家は日本絵画の精巧な筆致に『ここまで描くのか』と驚き、日本作家はスペイン絵画のテーマの多様性に触発され、お互いに刺激を受けています」と話すのは、ホキ美術館広報の安田茂美さん。「ベラスケスへのオマージュとしてフェリペ4世騎馬像を描いたものや、名だたる画家に繰り返し描かれている古代ローマの悲劇の女性ルクレティアをモチーフにした作品などは、油彩画の歴史の長いスペインならではの奥深さを感じさせます」と、文化的・歴史的背景にも触れる。実際に作品1つ1つと対面すると、計算しつくされた照明の下でその存在は際立つ。
例えば、ゴルチョの『眠らない肖像』。深いしわが刻まれた老人の頭部が横たわるモノクロの作品は、近づいて見ると、絵の表面にも細工がしてある。老人と目が合った時、彼は何を語りかけてくるのか、鑑賞者は答えのない答えを懸命に探す。不思議な体験だ。また安田さんの示す、細かい所に注目した見方も興味深い。「スペインの作家はキャンバスから手作りすることも多く、真ん中のつなぎ目が見えることもあります。額は木の枠といった感じで、日本作家の装飾された額と比べたらかなりシンプルです。それから裸婦像だとほくろ1つ1つもありのまま描きこみますが、日本作家はほくろは消してしまう。それぞれに労力を注ぐ箇所が違うのでしょう」
目が離せない、これから
保木博子館長はあいさつの言葉で、「両国の画家たちが切磋琢磨してすばらしい作品を作り上げていくことが、新たな芸術の流れを作っていく」と期待をにじませ、「スペインとの交換展がニューヨークや他の世界都市で展覧会を開催する一歩となるであろう」とさらなる飛躍を展望した。写実絵画の世界については、安田茂美・松井文恵『写実絵画とは何か?』(生活の友社)などの書籍が詳しく、一読すれば展示作品の魅力をさらに深めてくれる。興味のある方はミュージアムショップにてどうぞ。また、会期中の館内レストランとカフェでは、それぞれスペインの料理やスイーツが用意されている。こちらも楽しみの1つとしたいところ。現在進行形で進化する写実絵画の今を、ぜひ千葉の地でじっくり感じて欲しい。開館時間は10時~17時半。(火)休館、8月13日は開館。
問合せ:ホキ美術館
TEL.043・205・1500