ただ純粋に、少年のような心で模型を手掛ける 中森 敏夫さん【市原市】

 市原市在住の中森敏夫さん(64)は、子どもの頃から好きだったプラモデル作りが高じて、大人になってからは鉄道のジオラマや建築の模型などを含め、数多の作品を作り続けている。紙粘土で作るショートケーキやクッキー、ロールケーキは子どもや乙女心をくすぐるには充分過ぎるほどの可愛らしさで、近年、市原市立有秋公民館で夏休みに行われている『親子でスイーツデコ』教室は大好評。作品を見ているだけで口の中に甘い生クリームの味が蘇り、焦げた様子まで表現している食パンからは匂いまで感じられるようだ。

模型好きの理由って?

 中森さんは静岡県出身。「全国に流通しているプラモデルの9割は静岡市で生産されているんです。模型の町という環境で育ち、プラモデルを作ることはごく自然なことでした」と話し、工作や絵を描くことも得意だったとか。手先の器用さは作品を作ることに大いに生かされ、紙粘土で作ったネギやキャベツ、茄子などの野菜は小指の第一関節にも満たない大きさだ。野菜の細部の色が丁寧に塗られているだけでなく、野菜を入れるための段ボールの模型でさえ、通常の大きさの段ボールのように織り込んで作られているという手の込みよう。「上総更級公園で展示をした時には、細かいことに驚きながら、子ども達が作品に顔を目一杯近づけて覗きこんでくれました。今までに8千近い作品を作ってきたと思いますが、まだゴールはない。アートとしての評価を求めるのではなく、何かを見ると興奮して少年のような心を取り戻すことを楽しんでいるんです」と、中森さんは模型作りの魅力を語った。
 作品を作る時に必要なのは、まず対象物をよく観察すること。3Dプリンターのようにただ写すのではなく、物本来の姿を表現するためには自分で形をどうイメージするかが鍵となる。「仕事だと制約や評価、ストレスは付き物ですよね。でも模型作りは、そんな理屈を一切抜きにした制限のなさが、私を精神的に解放してくれるんです。人によっては、模型を作ってどうするんだ、と思うかもしれない。でも模型を見て、そこに隠れた小さな笑いを見つけて、底抜けにバカバカしいけれど楽しいと感じたい」のだという。人差し指ほどの小瓶に入っているのは雪の降り積もった家の庭にいる黒猫、その脇にひっそりと雪うさぎの姿が。また、海の中を泳ぐ魚だけかと思いきや、小瓶の蓋をあけて初めて見える位置にもさらに魚の姿を発見。そして、波のしぶきをかき分けて進むイルカの大群の中、ひっそりと一頭の背中に人間が乗っていることも!じっと見つめ、どんな仕掛けがあるのか。そんな視る者の探究心をくすぐるのも、中森さんの作品ならではだろう。
「作品すべてに思い入れがあります。たとえ5分で作れたものがあったとしても、何時間かけて制作したものと同じ意味があるんです」と話す中森さんは、「大切なのは細かさだけでなく、見えないところにある値打ち」だと続けた。絵皿を制作した時には表面にだけでなく、裏面には対になるような画を描いた。立て掛けて飾ってしまうと、表しか人の目には映らない。しかし、普通にしていると見えないからこそ、裏面に気づいた時の衝撃はいかほどか想像に難くない。

模型には無限の可能性

 中森さんは、『模型にはならないものを模型に』という挑戦も続けてきた。小5からロック音楽にはまり、多くの小説を読むなど興味の幅は広い。そして、「60歳を過ぎると、自分の中にいる色んな種類の感情を持った個々が消失していく気がするんです。それでも、新しいものを目にして、時代が変わっていくのを感じたい」と儚くも、強くロマンチックな想いを告げる。それは、魚の開きや果物という普段見ているものだけでなく、『雲』や『太陽や惑星のある宇宙』、『風』までを模型にしてしまう中森さんの、本来の制作好きの心が生き続けているからだ。
そして最後に、「近年、自分の行動をSNSにあげて『いいね!』をもらうことに執着してしまう人が多いですが、人の評価を得ることは大事ではないんです。自分がどうしたいかは、自分が一番よく分かる。私は形式も言葉でもない模型というコミュニケーションで、くすりと笑える無限の可能性を秘めた作品を探求していきたいです」と、変わらぬ模型への想いを語った。

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