父は戦争で何を体験したのか 戦争の記録・記憶を辿って見えたものとは~ 俳人 大関 博美 さん~【市原市】

 市原市在住の俳人である大関博美さんは、俳句結社「春燈(しゅんとう)」と俳人協会の会員であり、今年7月『極限状況を刻む俳句 ソ連抑留者・満州引揚げ者の証言に学ぶ』を出版した。出版した日は、存命であれば父98歳の誕生日だった。構想・着手・出版までに10年を要した本書には、戦争体験者の証言や俳句作品の紹介、極限状況における俳句のはたらきと、詳細な歴史背景がまとめられている。

俳句との出会い

 大関さんは1983(昭和58)年に、千葉県医療技術大学校(平成23年閉学)を卒業し、就職。配属された部署で出会ったのが、俳句である。「隣の席だった先輩が、俳句を詠んでいたので、私も10句ほど詠んでみました。句会に持っていっていただいたら、2等賞だったと聞かされ、びっくりした」のが、始まりだった。俳句の知識はなかったというが、目で見て、感じたことを表現する力に長けていたのだろう。その後、結婚をして子育てと仕事を両立することに忙しく、俳句も細々と10年ほど続けていたある日、ひとつの出会いがあった。「杖の先に死に場所を探して散歩をしていると話す、障がいのある方がいました。何かのお役に立てないかと、俳句サークルを作り活動を始めました。結果、その方は俳句を楽しんでくれた」といい、俳句が人の心の支えになると実感したのだ。

 病を抱え、死を見つめる人たちに勧めたことが転機だった。あらためて俳句の勉強を真剣にしようと思った大関さんは、正岡子規や小林一茶の古典、夏井いつきなど現役俳人の本を読んだ。「なかなか上達しないジレンマや句会で選ばれないことに落ち込んだこともありますが、なんとか続けてきました。ふとした時に思い浮かぶ句の方が、うまく詠めていることがあります」と、笑顔を見せる。『アネモネの開きて午後の始まりぬ』、『アスファルトの裂けし底より蚯蚓鳴く』らの句では、俳句雑誌『俳句あるふぁ』への投句にて、それぞれ宇田喜代子氏佳作、松崎鉄之助氏入選を果たした。

 俳句を始めて40年。大関さんは、「何年か前からは、一日5句作るという目標をもち、句会などに出す時はその中から最終的に厳選する」と言い、「テーマを決めてじっくり詠む時は、佐原の町並みや成東の食虫植物園に3~4年通い続けては、納得するまで詠んできた」というから、驚きだ。『俳句を詠むこと』について、まだ自身の結論には達していない。ただ、「90歳くらいになって、ずっと続けて良かったと思えたら嬉しいです」と話した。

父の面影を追って

 「私の父は、62歳の時に心臓の病気で急死しました。農作業でよく働き、冗談をいってはにこにこ笑っている人でした」と、大関さんは思い出すように語る。本書では、1900年初頭の日清戦争から第二次世界大戦の歴史の他、シベリア抑留者3人の体験談や抑留俳句の解説が丁寧に綴られている。マイナス30度以下にもなる北の寒さや食糧不足の飢え、感染症による死と隣合わせの過酷な環境で生きる人々の不安や悲しみを感じずにはいられないだろう。だが、精神的に過酷な体験をした人に多くあるように、大関さんの父親も戦争体験を語らなかったという。父親の背中にある大きな傷跡は気になったものの、触れてはいけないことと思い、その由来を問うことなく見守ってきた。

 「高校生の頃に私の希望する進路を父が認めてくれなかったことで、小さなすれ違いがありました。思春期にはよくあることだったかもしれないけれど、それを解決せず死に別れたことのわだかまりが、この本を出版しようと思った理由です」と、話す大関さん。父親の死後、その足跡を辿るため、厚生労働省社会援護局が保管するロシア連邦政府提供資料の閲覧を申請し、また、本書を記すにあたっては、数多くのソ連抑留者や満州引揚者の悲劇がなぜ起こったのかという問いを追った。「私なりに歴史書を検証しながら、第一章では『日清・日露戦争からアジア・太平洋戦争の歴史を踏まえて』を記し、第二章以降では極限状況で詠まれた俳句の価値を探ろうと考えた」と話し、「日本人は歴史的な観点で、近現代の歴史からもっと多くを学ぶべきです」と訴える。

 そして出版後の現在、大関さんは「父と同世代の戦争体験者の証言を伺い、父の想いに少し寄り添うことができたと感じました。執筆にあたっては、体験者とご遺族の方々がインタビューに応じ、本に残すことに了承してくださるなど、貴重な出会いに感謝しています。私の想いに共感してくれる方や若い世代の方々に、本書を読んでもらえると嬉しいです」と、噛み締めるように語った。

 

・購入の問合せ:コールサック社
『極限状況を刻む俳句 ソ連抑留者・満州引揚げ者の証言に学ぶ』
Tel.03・5944・3258
Fax.03・5944・3238

 

問合せ:大関さん
mail:nodok8p@gmail.com

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