世界で一番幸せな国 ブータン的生活に憧れて

写真家 関 健作さん

 2011年秋、南アジアにある小国ブータンのワンチュク国王夫妻が来日されたのは記憶に新しいが、そのとき有名になったのが、ブータン独自の国の指標であるGNH(国民総幸福量)だった。ブータン国民の97%が幸福と感じているというのだ。そんな幸せな国に憧れ、夢を実現させたのが、カメラマンとして活動する横芝光町在住の関健作さん(30)だ。2007年1月から約3年間、関さんは青年海外協力隊の体育教師としてブータンへ赴任した。憧れ続けたブータンは、その後の関さんの人生に大きな影響を与えることになった。
 小学校時代から走ることが大好きだった関さんは、大学まで陸上一筋の人生を歩んできた。400mハードルで高校時代は全国でもトップクラスにいたが、順天堂大学へ進学すると、「悩みました。陸上の世界では勝たなければ価値がないわけです。僕は練習中のケガもあり、本来の走りができなくなると結果も出せず、自分自身に価値が感じられなくなっていって…」、素直に笑えなくなり、心がすさみ、友達の勝利も心から喜べなくなっていったという。
 そんなときに目に飛び込んできたのが、テレビから流れるブータンで体育を教える女性の紹介番組だった。「青い空の下で子どもたちと楽しそうで、子どもたちの笑顔が本当に素敵だった。そのときビビビっときて行くしかないって思ったんです」と関さん。

 もともとヒマラヤに興味があったという関さんは、引退試合が終わるとすぐに、まず自転車でのチベット高原横断の旅に出た。3カ月に及ぶ旅で、ひとつひとつ目標をクリアしていくと、「失いかけていた自信が戻ってきた」という。そして、「世の中には違う価値観があって、いろいろな生き方があることを知れた、とてもためになった旅でした」

 帰国後、まったく就活をしていなかった関さんだったが、青年海外協力隊の募集にブータンへの体育教師派遣を見つけ、猛勉強のすえ見事合格。ようやく憧れの国、世界で一番幸せな国といわれるブータンへ向かったのだった。

 同期でブータンへ赴任したのは7人。だが、首都から車で3日かかる田舎町に派遣された関さんは、赴任地でたったひとりの日本人だった。不安はまったくなかったというが、母国語はゾンカ語、授業は英語という中で、「先生のくせに英語もしゃべれないしゾンカ語もわからないって、子どもたちにすごいバカにされて、必死でゾンカ語を勉強しました」。結果3カ月で会話はできるようになり、夢もゾンカ語でみるようになったとか。
 肝心の体育は、そもそも体育という授業がなく、「体育って何?」からだったそう。道具もないから、ゴミを丸めてボールを作ったり、竹を切ってバトンやハードルを作って教えた。近代的なものは何もなかったが、きれいな大自然の中で子どもたちの最高の笑顔に囲まれ、村の人たちも優しく、関さんは幸せな日々を送っていた。

 任期を終え日本に戻った関さんは教員になった。が、人の目を気にして周りに合わせ、足並みを揃える日本の教育現場にいたたまれなくなり、「迷いましたけれど、まだ挑戦したい欲求のほうが強く、できるところまでやってみようと教員は辞めました」。教えること、伝えることが好きだという関さんは、ブータンで撮りためた写真で写真展を開き、講演などを通じてブータンの素晴らしさを伝える活動を始めた。昨年夏には、写真紀行『ブータンの笑顔』(径書房・税抜1600円)も刊行した。
「日本には何でもあるけれど、みんな経済を潤すために働いて、結果環境が汚染され、人もすり減っている。ブータンは経済的に遅れています。でも、僕からしたら宝の詰まった国です。子どもたちの親はほぼ教育を受けていないけど、自然の中で生き抜く知恵を知っている。ブータンの人は自然や大切な人と過ごす時間を大切にしているし、自分たちらしさを捨てていない。僕もそういう生き方をしたいと思っています」と語る関さんは、この先、ブータン的な生活を目指し、田舎で自給自足に挑戦する予定だ。そして写真家として「第2の故郷」ブータンとはずっと関わっていきたいという。(菅家)

問合せ 関健作さん
http://kensakuseki.com/

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