海中熟成酒 古のロマンを科学的に解明
- 2014/7/18
- 外房版
江戸時代、上方から船を使って運んだ日本酒が美味いと評判になり、江戸に運んだ酒をそのまま船で持ち帰り、『戻り酒』と呼んで珍重されたという記述がある。これは船や潮の流れの揺らぎが酒の熟成を増すのではないかとの説が有力だ。そこで揺らぎの効果を確かめてみたいと立ち上がったのが『海中熟成酒プロジェクト』。新潟、山形、岐阜など、全国の15酒蔵が参加したが、御宿町の岩瀬酒造もその中の一つ。純米大吟醸酒の四号瓶200本を提供した。
「私自身、揺れが酒の熟成に与える影響がどんなものか確かめてみたいと思いました」と岩瀬酒造の岩瀬能和社長。岩瀬酒造の使う地下水は貝殻層を通るため硬度が高く、カルシウムやカリウムなどの養分が多い分、しっかりした持ち味になるといわれている。それぞれの酒蔵が自分達の造る酒の味の変化に期待を寄せる中、昨年11月30日と12月1日、特別に作られたカゴに入れられた3200本が、透明度の高いことで有名な南伊豆中木沖300mの水深20mに沈められた。日光の影響が及ばないよう酒は黒の不透明な瓶に入れられ、また浸水や腐食によって味が左右されないようにと、日本とオーストラリアの企業が共同開発した密閉度が高いキャップを酒瓶の栓に取り付けて万全を期した。地元ダイバーが海中に潜り、熟成を見守りながらの半年後、海中から引き上げられた酒瓶は、簡単な水洗い後、一斉に各蔵元に送られた。
さっそく岩瀬酒造では有志が集まり、海中に沈めたものと沈めなかった酒の飲み比べをする会が催された。「同じ銘柄の酒と比べると、色が濃くなっていました。熟成が促進されたということでしょうか、味がまろやかでコクも出てきたようです」と参加者の一人。この色の違いは冷蔵庫よりも海水温が高かったからと、その場で岩瀬社長が説明。酒造りの奥深さを知るよい機会ともなった。
また同プロジェクトは熟成が増しているのを科学的に証明しようと、山形県鶴岡市にある慶応義塾大学の先端生命科学研究所に協力を依頼。まずは11月、各蔵元から送られてきた酒の成分を測定し、海中で熟成したものと、同期間、蔵で熟成したものを比較検査する。その結果はまだ先になると思うが、古の頃から言い伝えられてきた揺らぎと酒の熟成の関係が証明されることになるのが楽しみだ。海中熟成酒は蔵で熟成した同銘柄と合わせ100セットのみ販売する。
問合せ 岩瀬酒造
TEL 0470・68・2034
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