今この時だからこそ残しておきたい大切な思い

 今年7月、半世紀前に訪れた南太平洋上の小さな島での経験を下に、物語を2冊の絵本として発表した、九十九里町に住む小谷ひでをさん(84)。
 小谷さんは幼い頃から絵が好きで、あらゆる絵に関する仕事を手がけてきたという。当時、東京でイラストレーターとして忙しく働く会社人間だったが、肖像画家として絵は描き続けていた。しかしスランプになり、何とか脱却を図ろうとしていた時、会社の同僚から貨物船なら安くタヒチに行けることを耳にした。「都会の生活とは正反対の環境に自分を置くことで、新しいテーマが見出せるのではないか。日本人や西洋人ではない混血の顔をした少女を探そうと思いました」と小谷さん。しかしそうなると会社は辞めなくてはならない。長旅の旅費はもとより、4歳になる息子と妻の生活費など、金銭的にも不安は大きかった。「反対されるのを覚悟で、半年間の長旅の事を話すと、妻は驚きもせず、お金が無いなら借金という手もあると言ってくれました。私が38歳のときです」
 調べてみるとタヒチは観光地化しており魅力は感じなかった。そこで混血化が進み、美男美女が多いといわれ、昔ながらの生活をしているマルキーズ諸島に行き先を決めた。タヒチから1500㎞離れた14の火山島からなるフランス領の諸島だ。まず横浜港から船でハワイへ。ハワイからタヒチへは便数の都合で飛行機を使うことにした。そしてタヒチからマルキーズ諸島へは定期的にマルキーズ諸島を回り、石鹸などの原料となるコプラを買い付ける小さな貨物船で向かった。小谷さんの滞在地は伊豆大島くらいの大きさのファツヒヴァ島。あまり言葉の不自由も感じず、村に伝わる物語を題材にした絵を描いたり楽しく過ごしたという。しかし肝心の新しい顔は発見できず3カ月後、再び貨物船が到着し、小谷さんはそれに乗って帰らなくてはならなかった。ファツヒヴァ島を出港した後に立ち寄る島でも新しい顔を探し、とうとう船は最終寄港地の島の入り江に到着した。小谷さんは最後にティキという石の造形物を見ようと島の山に上った。その時、森の中から仔馬をひいて出てくる少女が見えた。「亜麻色の髪、大きな瞳、黄褐色の肌。その顔こそまさしく私が求めていたものでした」。少女の名はテアタ、8歳。フランス人との混血で、ポリネシアとヨーロッパの双方の良さを受け継いでいたが言葉を話すことができなかった。小谷さんは4時間あまりを共に過ごし、残り少なくなったフィルムに少女の姿を収めた。
「都会に憧れる若者の移住と残された老人達。フランス政府が南太平洋で密かに行った核実験の影響など、現地の人々の明るさとは裏腹にある滅び行く民族の悲しさを知り、私は本にして出版すると島の老人に約束していました。島で描いた絵のうち、1枚だけ知り合いに差し上げていたのですが、最近になってそれが戻ってきたこともあり、物語を出版することにしたのです」
 物語は創作ではあるが、実話を元にした内容になっているという。文も挿絵もすべて小谷さんによるもの。物語本は2冊セットで2千円。残り僅かだが九十九里町にある望月定子美術館にて購入することができる。

問合せ 小谷ひでをさん
TEL 080・6631・7151
問合せ 望月定子美術館
TEL 0475・76・4008

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