3年前の覚悟が今の嬉しさの原点となって

茂原市立萩原小4年 井桁芽香さん

 茂原市高師在住の井桁芽香さん(10)が、8月に行われた和道会全国空手競技大会『型の部』で見事優勝を果たした。練習に通っている茂原武道館の道場ではスピードに乗った切れのある技を繰り出す。「こんにちは!」としっかりとした挨拶は、大人にも清々しさを感じさせてくれるものだった。
「空手を始めたのは小学校1年の時。その頃は柔道など他の武道を知らなかったんです。身体が弱かったので強くなりたくて、自分からやりたいと言いました。最初は突きや蹴り、ひざの曲げ方など習得するのが大変だったけれど、今では滅多に風邪も引かないくらい強くなりました」と芽香さん。父親の俊さんも、「初めに言われた時は驚きました。たまたま道場も近かったのでいいかな、と。武道をやると礼儀や作法も身に付くので、この先本人のためにも良いと思いました」と話す。
 次第に強くなったのは身体だけではない。道場での練習の他、自宅でも体幹トレーニングを行っている芽香さんはめきめきと上達していった。年に10回以上の大会に出場しているが、同大会に参加したのは3回目。1回目に出場した時は強い選手も多くてほとんど勝てなかった。少し強くなったと感じてきていた昨年は惜しくも3位で敗れ、今年の決勝では「勝てると実感した」という。空手の中でも『型』が一番好きなのは、「スピードに強弱をつけるのが面白いから」だそうで、「それが大会で勝利した決め手にもなったのではないか」と分析する。試合ごとに俊さんが遠くからビデオを回し、自宅に戻って振り返る。大きな瞳でまっすぐ前を見つめ笑顔を見せ、芽香さんは背筋を正す。一生懸命言葉を探しながら小首をかしげる姿には、練習している時に見せる凛と佇む姿とは違って、あどけなさが残ってとても可愛らしい。
 長年練習を続けていれば、当然悩む時もある。大きな怪我をしたことはないものの、強化稽古では練習時間が長丁場になる。膝が痛くなって辛い時だってある。俊さんは自宅で芽香さんが悩んでいると感じる時もあるというが、あえて『何もしない』ことにしているとか。その理由を、「行きたくないと甘えが出てしまう原因にもなるから。色んな気持ちを押し殺し、それを乗り越えることが社会に出た時にも肝になってくるはず」と説明し、「空手についても素人なので余分なことは言わないようにしている。道場の師範にきちんと教わって、結果もついてきている。色々言うと、子どもなりにどっちが正しいのかと惑わしてしまうことにもなりかねない。私たちが言っているのは、礼儀だけ」と続けた。芽香さんもすぐに、「行きたくないなって思ってしまうこともあったけれど、道場に来て練習を始めるとすぐに楽しくなっちゃうんです」と笑う。

 通っている道場の師範である斎藤太助さんは芽香さんを、「初めは大人しい子だった」と振り返る。しかし、「きつい練習にもついてこられるようになって力もついてきた。彼女の魅力はなにより集中力。挨拶もできて礼儀正しいし、今ではどこに出しても恥ずかしくない選手になった」と続けた。夏場の道場は蒸し暑く、子どもたちは汗だくになりながら練習を続けている。その中でも、自ら『空手をやりたい!』と始める子どもたちは、やはり辛抱強く努力して伸びていくという。芽香さんの『意志』は、これからの彼女をどう変化させていくのだろう。小説が好きで分厚い本を読むことも多く、ゲームだってする。肉や卵、ケーキが大好きな育ち盛りだ。「空手に関しては、もう少し力強さを持って欲しいと思っています。自分の意識次第なので、彼女なら可能だと思います」と斎藤さん。
 芽香さんも、「斎藤先生に教えてもらって強くなったし、力もついた。でも、自分の理想を100%としたら今はまだ50%くらい。もっと強くなって上の大会にも出てみたい。それに、空手には流派が他にもあって、私が8月に出たのは和道会だけのもの。全部の流派が出られる大会もあるので、違う流派の人とも戦って勝ってみたいです」と抱負を語る。芽香さんの活躍を家族みんなで応援中。中学校に入学するころには、彼女はどんな姿になっているのか楽しみだ。

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