大人になったあなたにも声を届けたい

朗読ボランティア オリーブ

 幼い頃に触れた物語、切ないラブストーリーや時代小説などを声で聴く朗読。「お芝居の一幕を見ているような、不思議な時間を味わうことができました」、「本を読んだ時の若い頃の気持ちが蘇るようでした」と聴衆の心を揺さぶった『オリーブ朗読会』が昨年12月、山武市にある、さんぶの森文化ホールにて開かれた。
 「少しでも心温まる和やかな時間を過ごしてほしいと思います」とおよそ100人を前に公演したのは朗読ボランティア『オリーブ』。2004年、旧山武町の社会福祉協議会から声をかけられ、山武中学校のPTAの母親読書会に参加していたメンバーが団体を結成した。「はじめは棒読みでした」というが、日本朗読文化協会に所属し、船橋市や千葉市でグループ公演などを行って活動していた古内恵美子さんを中心にエッセイなどの短文を一緒に勉強し、しだいに自分好みの作品を持ち寄り、思いを伝えられるようになった。代表の古内さんは「活動回数と内容の濃いサークルです」と聞き取りやすい声で話す。今では毎週のように山武市の日向幼稚園、むつみのおか幼稚園、日向小学校、松尾図書館、福祉施設などに読み聞かせや朗読に出かけている。
 練習は月2回。「作品の良さを引き出し、相手の心のなかに風景や登場人物の気持ちがすっと入るようにとアドバイスしています」。子ども向けの読み聞かせに比べると、大人用の朗読会は少ない。「チラシ作り、受付、進行など自分ができることを分担して自主運営しています。回を重ねるたびに観客の人数が増え、反応も良くなってきました」と春と秋の年2回開催してきた朗読会は今回で20回目だ。サークルが長続きしているのは「本が好きで、お互いに一緒にいて楽しいから」だそうだ。
 この日、古内さんが「言葉がすっと入ってくる素直な声」と評する宍倉正枝さんが読んだのは、藤沢周平作『つばめ』。江戸の生意気盛りの少女が大人になっていく心情を声だけで表現した。篠原可子さんは「丁寧に情景描写をし、セリフの心情表現、作品の思いを細かく思い描きました」とアニメにもなった19世紀の児童文学ウィーダ作『フランダースの犬』で聴衆を感動させた。
 着物姿で登場した田口久美子さんが選んだのは海野弘作『菊づくり』。今までは色物やおどろおどろしい怪談話などを取り上げてきたそうだが、「亡くなった父が好きだった菊を題材にしました」と思い入れを語る。三味線や詩吟も嗜んでいるそうで、艶のある声が遠くまでよく響く。鈴木寿子さんは神坂次郎作『鯛一枚』を朗読した。「NHKラジオで放送された作品。45分ものを短くしました」。年に一度出る鯛を楽しみにしていた河内の殿様の顛末を描いた物語。「いつも笑いをどこかに入れるようにしています」と頭から突き抜けるような声色でいろは姫を演じ、会場を楽しませた。升谷志乃扶さんは和巻耿介作『快盗鼠小僧』を選んだ。「セリフが多く大変でした。声色をただ使い分けるのではなく、距離感も大事だと古内さんから教わりました」。人物の性格を捉え、祖父と孫のやり取りがほほえましく演じられた。最後に登場した古内さんは浅田次郎作『ラブ・レター』を朗読した。ヤクザに使われ便利屋まがいの仕事をする男が偽装結婚した妻から受け取った手紙。真っ白なドレスで外国訛りの発音で語りかける古内さんの姿はまるで手紙の主のよう。会場はしんと静まり返り、涙を浮かべる人もいた。
 一番苦労するのは意外にも「時間内に収まるようにストーリーを再構成すること」だそうだ。持ち時間は一人10分から15分。たったそれだけの時間で、聴く人を読み手の世界に惹き込んでいく。「昔読んだ物語を思い出したり、初めて聞く話に興味をもったりと、朗読会をきっかけに本を手にしてほしい」というメンバー。 「朗読は作品の良さを声に出して伝えることができる喜びがあります。朗読会で気持ちを動かし感動してもらいたいです」と作品に命を与えてきた。現在、メンバーは60代から80代の男女8名。今回、メンバーの及川節子さんと設楽五兵衛さんは都合で出演できなかった。次の朗読会は同ホールにて6月3日1時30分から。

問合せ 古内さん
TEL 080・3411・4479

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