自分で見つけた人生のテーマが、世界に彩を与えてくれた ~陶芸家 井口峰幸さん~【大多喜町】

 大多喜町で工房・阿弥陀窯(あみだよう)代表の陶芸家として活動している井口峰幸(たかゆき)さん(65)。今年1月、自身が長年研究し続けてきた『大多喜焼』が、千葉県指定伝統的工芸品として指定された。これは千葉県が伝統産業を守るために1984年に設けた制度で、現在までに195件が指定を受けている。「大多喜焼は明治20年に鍛冶町に住んでいた鈴木菊太郎氏が鍛冶神明山の陶土を発見し、昭和25年まで製造販売を続けていたのですが、それ以降途絶えていました。今回の指定は、鈴木氏の生きた時代から引き継いだ伝統という部分に加え、私が長年こだわった地場産業として大多喜の素材を生かすという2つの部分が認められたのだと思い、とても嬉しいです」と話す、井口さん。大多喜町に住んで34年を迎える井口さんが、今回の指定を成し遂げるまでにどのような鍛錬を続けてきたのか、ご紹介していこう。

様々な土地で経験を

 八街市で生まれた井口さんは、公務員をしていた父親の転勤で中学三年生の時に印西市へ転居。高校卒業後は狙いの大学を目指して2浪をしたものの思うような結果は出せず、山小屋でアルバイトをしたり、開拓農家に行き援農をしたり、フランス語の勉強をするために専門学校へ通ったりと色々なことに挑戦をしてみた。「行政書士や高圧ガスなど専門的な資格も取得していたので、後に工業新聞の記者として就職できました。その後、書道団体に転職した時、陶芸家の加守田章二さんの作品に出会い、感銘を受けて物を作る側に回ってみたくなったんです」と笑う。
 25歳の時、脱サラして飛び込んだ先は、愛知県瀬戸市にある県立窯業高等技術専門校。1年間みっちりと基礎を勉強した後、次は常滑市立陶芸研究所へ進んだ。当時を語りながら、「意外かもしれないんですが、両親は理解があり全く反対しませんでした。周囲には、どうしてと思う人もいたかもしれません。でも人生は一回のみ、やりたいことをやるべき」と、力を込めた。

 27歳になる頃には、国立名古屋工業技術研究所瀬戸分室で特別研究生として釉薬の研究に没頭していたが同年、青年海外協力隊に合格した。赴任先はアフリカのガーナ。政府職員(シニアトレーニングオフィサー)として現地で人材育成をしながら、国内の窯業原料による地場製品の開発に携わった。「現地では労働争議が絶えず、食べ物はとうもろこし粉を練った物やトマトを唐辛子であえた物。ネズミかウサギか分からない肉も食べたし、マラリアに2回もかかって大変だった。でも、どこへ行っても子ども達の笑顔に囲まれていた」とか。職訓センターの支所長として釉薬の調合を教えたり、製品の品質管理を指導したりと様々な経験が井口さんの『ガーナの力』となったことは間違いなかった。

いざ、大多喜へ!

 帰国後、31歳になった井口さんは、武蔵野美術大学でデザインを学びながら工房を建てることを決意した。外房や南房総を中心に探した結果、たどり着いた場所が大多喜町だった。『阿弥陀窯』と名付け、自身で3つのテーマを掲げた。「1つ目は伝統的な釉薬の研究、2つ目が大多喜町の土や草木を使っての創作、3つ目が中国で作られた幻と言われる曜変天目(ようへんてんもく)の研究です。伝統釉の研究は私が好きな緑色の織部という釉薬で行いました。大多喜町の素材を使った作品の研究が、今回認められたことは長年の成果として大変嬉しいです」と、笑顔の井口さん。数多くの個展も開催し、常に陶芸と向き合ってきた。大多喜町の粘土は焼くと25%縮むため成形が難しく、大きな作品を作る時は信楽の土をブレンド。長生や勝浦、君津など様々な土地を調査で廻ったが、地元の原料のみで素地土や釉薬などの原料を作ることは大変だと身をもって実感している。
 そして井口さんは、「2つのテーマはクリアしたので、これからは3つ目の曜変天目に挑みたい」と話す。曜変天目は器の中に宇宙が見えると評されており、天目茶碗の最高峰。現存する茶碗は4点しかなく、それを再現できた人はいない。「曜変天目の手前とされる油滴天目には成功しているんです。これからも分析を続けつつ、創土会の運営にも力を入れ、ギャラリーを造って作品を置くことで町おこしの一端を担うのが目標ですね。陶芸人生の最後のステージに上がったと思います」と、熱い決意。現在、自身の大多喜町の工房の他、NHK文化センター千葉やよみうりカルチャー大森で陶芸教室の講師を務めており、大多喜町の工房でも生徒を募集中。作品は大多喜駅前の観光本陣にて展示発売中。詳細は問合せを。

問合せ:井口さん
千葉県夷隅郡大多喜町三又1050の13 
TEL.0470-84-0664
mail:amidayou@kbd.biglobe.ne.jp
http://amidakiln.com/

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