冬いちご 遠山あき

冬いちご 遠山あき

 冬枯れの季節になった。蛇も毛虫もいなくなった山の掃除に孫が手伝いに来てくれた。湿った土の匂い、杉葉の枯れる匂い、踏む枯れ草のそこはかとない暖かさ。寒いけれど冬山は肌に優しい。
「おばあちゃん、あの赤いの何かしら」
 孫が、少し離れた傾斜地の下草の中から自己主張をしているように紅色を覗かせているものを見つけた。
「紅葉した葉っぱじゃないの?」
 そっと鎌の先に引っ掛けて近寄せた。葉っぱではなかった。赤いものは一個でなく三個ついている。茎は蔓になってのびていた。蔓をたぐると五個も六個も赤い実がついていた。
「わー、いちごだわ!」
 この寒さの中で、いちごはつぶつぶのルビーの固まりのように枯れ草の中で輝いていた。春の終わりの頃、黄色い甘い山いちごの熟れたのを見つけてはよく食べたものだ。しかし、冬枯れの林の中に赤いいちごがあったとは知らなかった。
「あらア、あそこにもある! あらあら、あっちにも!」
 下草刈りをそっちのけで、孫はいちごの紅色を追いかけ始めた。陽のまだらに射す南向きの林は、きっといちご達に程よい暖かさと光を与えてくれるに違いない。しかし、時には氷雨のそぼ降る日もある。そんな日、このみずみずしいいちご達はどう冷気に耐えていたのだろう。一粒口に含んだ。甘くて少々渋い。
 孫は「食べちゃ駄目よ。図鑑で調べてからにして」と、掌を引っ込めた。家に帰って図鑑を見た孫が声をあげた。
「わー、冬いちごだって。食べられるんだって。蛇いちごかと思ったわ」
 冬いちごとは、山家に住んでいるのに初めて知った。冬枯れの林に宝石のように輝いていた。寒に耐えてその紅色はいっそう美しかった。孫は大切にそのいちごを持って帰った。
 次に来た時、彼女はそのいちごで「いちごジャム」を作ってきた。トロリと甘く自然のままのジャムは口の中で溶けた。もし誰も見つけなかったら、このいちご達は、その輝くような甘い短い結実のあと、どのように終わるのであろうか。ジャムを口に含んだままその命を思った。

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ

今週のシティライフ掲載記事

  1.  1月8日(土)、千葉市中央区にある青葉の森公園芸術文化ホールにて公益財団法人千葉県文化振興財団主催で「見る、知る、伝える千葉 創作狂言 里…
  2.  いちはら地域ネコの会は、不幸なノラネコがいない地域社会を目指すことを目的に、平成24年に設立されたボランティア団体。地域ネコとは地域の理解…
  3.  いつも通る雑木林の奥に、輝いているかのように際立つ赤褐色の木を見つけた。マツ科マツ属の常緑高木、アカマツ(赤松)であった。  大きなもの…
  4.  昨年11月21日(日)、千葉市中央区にある青葉の森公園芸術文化ホールにて開催された『もんきりワークショップ』。午前と午後の2回行われたワー…
  5.  社交ダンスに限らず、特に魅せるスポーツにおいては選手の「表情」が大きな意味をもっていますが、このコロナ禍において、すでに2年近くの間、表情…
  6.  昨年10月19日、山武市の松尾IT保健福祉センターにて、山武市保健推進員協議会主催の『知ってる?パッククッキング~災害時常備食クッキング~…
  7.  明けましてておめでとうございます。草花や野菜と共に生活をしていると、四季の移り変わりもよりあっという間のような感じがします。昨年は園芸だけ…
  8.  市原市は東京湾に面していても、残念ながら海で楽しめる場所がほとんど無い。唯一楽しめる場所は養老川河口で、海釣り公園があり、数多くの子供から…
  9. 「晴れたら市原、行こう。」をコンセプトに、2014 年からトリエンナーレ形式で開催されてきた「いちはらアート×ミックス…
  10. シティライフ編集室では、公式Instagramを開設しています。 千葉県内、市原、茂原、東金、長生、夷隅等、中房総エリアを中心に長年地域に…

ピックアップ記事

  1.  1月8日(土)、千葉市中央区にある青葉の森公園芸術文化ホールにて公益財団法人千葉県文化振興財団主催で「見る、知る、伝える千葉 創作狂言 里…

スタッフブログ

ページ上部へ戻る