心象のイメージを画に託す

心象のイメージを画に託す
銅版画家 吉瀬 透さん

 漆黒の背景に流れる線。彼の心に潜む何がこんなにも幻想的な画を描かせているのだろうか。市原市在住の銅版画家である吉瀬透さん(58)は、高校で美術教師に勤しむ傍ら、生まれゆくイメージを銅版画に込め続けている。銅版画とは、銅板の表面に様々な方法で傷をつけてインクを詰め、圧力をかけて紙に刷り取る版画のことで、力強い線や無限の階調が表現できる。  
「幼少から絵が好きで、将来の夢は漫画家だった。高校で漫研に入ったら自動的に美術部に入部。初めて木炭デッサンに触れたらはまってしまい、美術の道に転向した」と吉瀬さんは話す。武蔵野美術大学造形学部油絵学科を卒業し、教職に就いて数年が経った頃、高校の美術部の先輩に銅版画の実験をしないかと誘われた。「リンゴの酸での腐蝕からガラスの欠片やサンドペーパーで傷をつけるなど、どんな模様が生まれるかという遊びだったが、これこそ私が銅版画を手がけるきっかけになった」という吉瀬さんは、独学で銅版画のテクニックを勉強したが、その後結婚し子どもが生まれたことでゆっくりと絵の世界に浸る時間的余裕がなくなり描けなくなっていった。
「画を辞めるつもりはなかったけれど、自分は選ばれた人間でないと思おうとしていた。転機が訪れたのは40歳を迎えた頃。千葉女子高校に赴任して驚いた。生徒達は、想像以上に一所懸命と部活や勉強に取り組む。触発されたといっても過言ではない。自分も頑張ろうと思った」と当時を思い出し笑顔を見せる。まずは時間確保のため4時間睡眠に挑戦。体質にあっていたのか現在も続いているという。その後、2000年に市原の京葉画廊、2008年に日本橋のちばぎんアートギャラリーと麻布十番ギャラリーの2回、2013年8月に西千葉のギャラリー古島で個展を開き、その他グループ展にも多数参加。
 2004年からは日本版画協会展にも出品、現在は準会員である。「若い時は余裕がなくて、浮かんだイメージに飛びつくように制作していた。真っ白な空間に取り残されるような、次の作品ができるか不安になることも多かった。でも、今は次のイメージも生まれる予感がある。原画や完成した作品を壁に掛けて眺め、納得するまで手を入れる。1つの作品を大事にできるようになった」と語る吉瀬さんだが、「最近は作業が細かくて目が少し厳しい。老眼鏡に専用虫眼鏡のダブル。肉眼で自分の画を見られないのは寂しい」という。
 だが、版画への想いに変わりはない。むしろ、「私はきっと天の邪鬼。若い時はラフなものが多かったのに、歳をとるほどどんどん細かい物に挑戦したくなる。また何年後かに個展を開催できるように、好きな作品を生みだし続けていけたら」と語る通り、これからさらに深みのある作品を手がけていくのだろう。
 

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