房総往来
- 2014/3/7
- 市原版

ラクダのまち 山里 吾郎
平成の大合併で、御宿町は隣接する勝浦、大原のどちらにもつかず、自立の道を選んだ。当時の取材メモを見ると「賛否はあったがやはり全国区『御宿(おんじゅく)』の名前を大切にしたい」これが自立の大きな決め手となったようだ▼その町名は鎌倉時代の5代執権、北条時頼が諸国行脚の際に同地の最明寺に宿泊したことに由来するという。文献によれば時頼は「思慮深い性格だったとされ、名を大事にした今の御宿に通ずるようだ▼大雪がまだ各所に残っていた2月中旬、同地を一泊旅した。所用のため立ち寄った君津の山道はまさに雪国のような残雪。ところが大多喜から外房へ出ると嘘のように雪は姿を消した。夕刻、御宿に到着。予約してあったゴルフ場のロッジに一泊し、翌日早朝から好天のラウンドを満喫した▼御宿と言えば海とともに思い出すのが「月の沙漠」。ラクダの背に揺られ沙漠を旅する王子と王女。そんな加藤まさお作詞のメルヘンチックな童謡の舞台が御宿の砂浜を全国区に押し上げた▼ちなみにゴルフ場の名前もキャメル、随所にラクダのモチーフが施され、コース内にある牧場ではラクダに似たポニーにも会える。そんな郷愁にも誘われ、ラウンド後そのまま海岸線に足を伸ばし、「月の沙漠記念像」と久しぶりに対面した▼砂丘をゆっくりと歩く2頭のラクダ。逆光の後ろ姿は王子と王女がまさに寄り添い歩いている。抒情画家でもあった加藤まさおは最終の地をここに定めるほど御宿を愛した。名を残した御宿、その輝きをいつまでも失ってほしくない観光地だ。