不合理な世の中で『日本人の心』はどう生きるべきか

 3月20日(日)、南総公民館主催で農民作家の遠山あきさん(96)による講演会が開かれた。テーマは昨年再版された『小湊鉄道のあけぼの(流紋)』。本作に沿って語られる、市原に流れた過去の時間の物語に、参加した約70名の受講者は静かに耳を傾けた。
 話は幕末、明治維新の頃。「約265年続いた江戸時代は、第15代徳川慶喜将軍の時に崩壊した。3つの大きな領土である、小さな国の薩長土佐から西郷隆盛、吉田松陰、坂本竜馬3名が中心となって幕府に反旗を翻した。西郷さんは武力、吉田さんは理論、竜馬さんは日本人の血の叫びを訴えた。民衆に自由と権利を持たせなければ日本の政治は長持ちしないと考えたから」と遠山さんがゆっくりと語る。
 農民が必死に働いても年貢で7、8割が徴収されてしまう。関所で手形が必要なため簡単に隣の村に行くことも出来ないのだ。そんな様々な不合理があった故に江戸時代は長く続いたのかもしれないが、限界だった。遠山さんは、「江戸で戦も出来たが、慶喜は城を無血開城した。それは降伏しなければ江戸の町が焼き払われてしまうから。町民を救うための降伏だった」と続ける。
 江戸城を守っていた徹兵隊(さっぺいたい)は無血開城後に船や陸を歩いて房総に逃れてきた。幕府直轄の土地がたくさんあるから味方につけて力を盛り返そうとしたのだ。しかし、官軍が追ってきて、彼らと徹兵隊が市原五井で大戦争を起こした。その時、「明日戦があるので町民は必要なものだけ持って山で隠れるように、と戦の前日に名主がお触れを出した」という。名主は『罪のない町民が死ぬことはない』と考え、町民は『戦争をするために生まれてきたわけではない』と強い心を持ち山へ逃れた。
 世界では今でも多くの戦争の火花が散っている。ウクライナ情勢ではロシアかヨーロッパかを巡り、お互いが不合理だと主張する。アフリカでは、女子どもが裸で泣きながら逃げまどい、拳銃で殺されている。様々な『不合理』が渦巻くのは日本も世界も同様だ。だが、外国の戦と日本が異なるのは『日本人の心』である。
 遠山さんの取材によれば、「五井での戦の時、町民は山から戻ってきて家に隠れている怪我をした徹兵隊を見つけた。匿って、看病した。やがて、徳川軍でも官軍でもみんな同じ日本人、罪は問わないというお触れが出て、その怪我をした男は市東小の初代校長になった」という。敵も味方もない、同じ日本人だという温情。自らが犠牲になるかもしれないという不安を抱えながら、見返りも求めずに他人に手を貸せる覚悟。
 遠山さんは、「何も言わないから、強く主張しないから気持ちがないのではない。その魂を持っているのは日本人の長所であり誇りではないか」と穏やかに話す。私たちに流れる血にも生き続けているだろう『日本人の心』をひとつ学んだ講演会だった。

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ

今週のシティライフ掲載記事

  1. 【写真】お店の前で。『十五や』のTシャツを着た藤本さん(後列中央)と田頭さん(右隣)  緑豊かな市原市東国吉で、県道21号…
  2. 【写真】本祭の武者行列で本田忠勝に扮する渡辺正行さん  第50回大多喜お城まつりが10/12(土)・10/13(日)の2日…
  3.  市原市では、現在「文化交流施設整備基本構想」の検討が進められており、この構想について市民の皆さんと一緒に考える「文化交流施設シンポジウム」…
  4.  親子で楽しめる『マミーズマルシェ・ハロウィンパーティー』が10月14日(祝)、夢ホールで開催される。主催は『マミーズハンドメイド』、子育て…
  5.  市原市、君津市、大多喜町が連携したスタンプラリーが8月26日(月)から12月15日(日)まで開催中です。久留里線、小湊鉄道、いすみ鉄道のロ…
  6.  マザー牧場では、9月1日(土)から11月30日(土)までの3カ月間、芸術の秋を楽しむイベント『第23回秋のこども写生大会』を開催中です。 …
  7.  先日、実家の父が他界しました。厳格な昭和の父から厳しく育てられた私は、中学生の頃、家を飛び出したこともありました。そんな父のお陰で、私たち…
  8. 【写真】2024年4月『みんなとうたコンサート』にて 『南総ラ・ムジカ』は、オペラを愛する市民合唱団。睦沢町中央公民館で…
  9.  動物たちを飼うには、彼らが生涯、安心して暮らせる環境が求められています。捨てられて保健所に捕獲されたり、個人の多頭飼育崩壊などで持ち込まれ…
  10. シティライフ編集室では、公式Instagramを開設しています。 千葉県内、市原、茂原、東金、長生、夷隅等、中房総エリアを中心に長年地域に…

ピックアップ記事

  1. 【写真】お店の前で。『十五や』のTシャツを着た藤本さん(後列中央)と田頭さん(右隣)  緑豊かな市原市東国吉で、県道21号…

スタッフブログ

ページ上部へ戻る