房総往来 懐かしの岬

山里 吾郎

 全編を貫く「ふしぎさ」には、もちろん大きな感動を覚えた。だが、自分にとってここは「ふしぎな岬」ではなく、幼少期の想いが詰まった「懐かしの岬」である▼モントリオール世界映画祭で2冠を受賞した評判の映画「ふしぎな岬の物語」を鑑賞した。原作の「虹の岬の喫茶店」(森沢明夫著)は出版(2011年6月)直後に通読、今回の執筆にあたっては「懐かしの岬」にも久々に足を運んだ▼実はモデルの明鐘岬は生まれ故郷・鋸南町のなかでもひときわ思い出深い場所。小学生から高校生まで、海好きだった父のお伴で毎週末のように訪れた▼目的は潜り。今なら密漁だが、まだ資源も豊富で地元民なら大目に見てもらえた時代。サザエやアワビなどの獲物を求めて荒波の岩礁を懸命に潜った▼なかでも鋸山のすそ野が東京湾に深く落ち込み、多くの奇岩が突き出た明鐘岬は危険と裏腹の大物ポイントだった。先端の“兜岩”目指して若者は何度となく潜水を試みたものだ▼この岬の入口に喫茶店が出来たのは良く知っていた。実家への帰りだったか、立ち寄った記憶もある。経営者の玉木節子さんは実は同級生。3年前に火災で全焼したことももちろん知っていた▼その周知の岬が物語となり映画化された。オムニバス風の原作を愛情たっぷりのヒューマンドラマに仕立てあげた秀作。主人公役の吉永小百合はもちろん笑福亭鶴瓶、阿部寛さんら芸達者な役者が物語全体に温かみと厚みを加えている▼ところで岬の喫茶店だが、予想通りだったとはいえ大変な混雑。評判の珈琲さえ飲めなかったのが心残りだ。

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ


今週のシティライフ掲載記事

  1.  森や川に生息する動植物などを観察し、親子で自然を楽しみましょう!4月27日(土)、9月7日(土)、11月9日(土)の全3回に渡って行い、講…
  2.  いつの間にか春も盛り。寒いうちに庭木に寒肥(肥料)を与えておこうと思ったのに遅くなってしまいました。寒い時は庭仕事がどうしても億劫になって…
  3. 【写真】ケヤキ一枚板のカウンターと。左から鈴木さん、悦子さん、智明さん  大谷家具製作所は2011年11月に長南町長南に工…
  4. 『リーダーハーフェン』は1982年結成の男声合唱団で、42年間その歌声を響かせてきた。構成は、トップテノール・セカンドテノール・バリトン・…
  5.  多くの映画ファンを虜(とりこ)にした女優オードリー・ヘプバーンを、前半・後半と2回に分けて掲載します。ヘプバーンは今でも日本や欧米諸国で人…
  6.  昔から『言葉3割、行動7割』という言葉があります。「子どもは親の言うことの3割までしか身に付けないが、親の行うことはその7割以上を身に付け…
  7.  市原市姉崎小学校を拠点に活動している剣道『錬心舘市原道場』。設立は1987年と長い歴史を持ち、小中学生を中心にこれまで数多くの卒業生を育て…
  8. 【写真】本須賀海岸(当写真は特別な許可を得て撮影しています)  マリンアクティビティのイメージが強い九十九里エリア。成田国…
  9. シティライフ編集室では、公式Instagramを開設しています。 千葉県内、市原、茂原、東金、長生、夷隅等、中房総エリアを中心に長年地域に…

ピックアップ記事

  1. 【写真】ケヤキ一枚板のカウンターと。左から鈴木さん、悦子さん、智明さん  大谷家具製作所は2011年11月に長南町長南に工…

スタッフブログ

ページ上部へ戻る