里山の案内役 小湊鐡道トロッコ列車

11月に運行スタート

 8月末日、小湊鐡道本社(市原市)にて、11月から運行が予定されているトロッコ列車のプレス発表会が開かれ、市内外から大勢の報道陣と、南市原の里山保全団体等の関係者が集まった。まずは、軌道バイク(保線作業用に改造したバイク。ホンダ125cc)に体験乗車。何故、この体験をするのかが分かるのは、このあと開かれる記者会見で。そして、新ユニフォームに身を包んだ機関士と車掌、アテンダント(案内係)から、市原市の新しいヒット商品となった梨サイダーが振る舞われた。
 同鉄道の列車内で始まった発表会で、石川晋平社長は「7年前、初めてレールバイク(軌道バイク)に乗り、とても楽しかった。風を感じ、陽射しを浴びて、野焼きの匂いを感じ…と五感がフルに活動した時間だった。忘れかけていた人間的感覚を伴う、とびきりパーソナルな、自分と里山の自然がひとつになる不思議なひとときだった。その時に、この快感が小湊鐡道社員の特権ではなく、多くの方々に味わってもらえたら」と考えたことが、トロッコ誕生のきっかけとなったと話した。7年の構想期間を経て実現したトロッコ列車は、新潟県の重機製作会社に特注したもので、小湊鐡道では、約40年ぶりの新車両導入となる。
 それから、スクリーンに映し出されるトロッコ列車の紹介と共に、首都圏から絶好の位置にある南市原の里山の魅力について語り、「トロッコ列車を里山の案内役としてその魅力を発信し、地域を盛り上げたい」と結んだ。 トロッコ列車の運行日は現時点(10月中旬)では決定していないが、懸念されていた豪雨による影響で不通となった月崎駅と上総中野駅間の復旧作業も10月末までに終了、運行は11月に入ってからと予定されている。現在、トロッコ列車は五井駅構内や終電が終わったあとの深夜、試運転をしている。
 すでに報道機関に発表され、全国の鉄道ファンや写真愛好家だけでなく、観光列車として乗ってみたいと子どもから大人まで注目を集めているトロッコ列車。運行区間は、里見駅から養老渓谷駅(9.2キロ)の計画だったが、里見駅の折り返し整備が整うまでは、上総牛久駅から養老渓谷駅(18.5キロ)となる。通常の半分の時速30キロ弱で走り、素掘りのトンネル、菜の花畑や橋の上などの見どころではのんびりと景色を楽しめるように、スピードを落としたり停車する。運行日は、12月下旬から3月上旬を除く(※冬休みは運行予定)、土・日・祝日など年間約180日間を予定している。平日は2往復、土・日・祝日は3往復の予定。定員は144人。2両目と3両目の展望車の定員は80人。料金は普通運賃にトロッコ料金(500円を予定)が加算される。乗車は電話予約制。当日、空席があれば当日券を購入し乗車できる。窓際、通路側の座席指定はできない。荒天以外、雨天も運行。
 では、トロッコ列車の紹介を。4両編成で客車を引っ張る機関車は、大正13年から昭和24年頃まで同鉄道で活躍した、ドイツ・コッペル社製のSL(蒸気機関車)を復元。環境に配慮した、二酸化炭素の排出量が少ないボルボ社製クリーンディーゼルエンジンを搭載している。舞台などで使われる発煙装置を装備し、煙突からバニラの香りがする煙が出る。なので、見た目は懐かしいSLだが、煙に悩まされる心配はない。更に、汽笛にもこだわり、かつて蒸気機関車が走っていた時に使われたものが残されていたので、これを磨き甦らせた郷愁ある音だという。 
 お馴染みのクリーム色に朱色のツートンカラーで4両編成の客車。2両目と3両目の天井は太陽光を生かした強化ガラス張りで、窓を取り外した、側面が吹き抜けのオープンタイプ。日光が差し込み季節の風に吹かれ四季折々の沿線の景色を楽しむことができ、広い範囲が見渡せる展望車だ。ボックスタイプの2人掛けの座席は木製で丸みを帯びたナチュラル感あるもの。機関車に連結した4両目の最前列の座席のみ数人掛けのベンチシートタイプ。車内灯は、温かみのある白熱灯のような淡いオレンジ色。尚、客車はステップレスの車椅子対応となっている。
 小湊鐡道では、『イルミネーション列車』、『懐石膳列車』、『歌声列車』等のイベント列車を走らせ、自転車を車内に持ち込める『サイクルトレイン』などを実施し、話題を呼び好評を博し集客効果もあったが、開放感があることで人気のトロッコ列車は全国でも数少ないものだけに、乗ってみたいと市原市を訪れる人は、かなりの数になることだろう。これから、紅葉シーズンを迎える養老渓谷。いつもなら、渓谷の紅葉狩りを目的に訪れる人たちも、『里山を走るトロッコ列車』に乗って、車窓からの景色を楽しみたい、日本の原風景を思い起こす里山ののどかな雰囲気を味わいたいと思うはず。そんな期待を裏切らないよう、リピーターにつなげられるよう、沿線の景観整備や、地元の人たちとの交流、『おもてなし』が今後の課題となる。
 これまでにも、10年前から市民がボランティアで種まきを続け、春に沿線を彩る菜の花が季節の人気スポットとして定着した活動『花プロジェクト』や、地元住民が駅周辺に花を植えたり、市原市の職員と線路沿いに生い茂った竹の伐採作業も行っているが、更に、市原市は市民と協働して観光地としての市原をPRしようと、今夏、『観光ボランティアガイドと地域づくり』をテーマに、市原市と日本観光協会が主催する研修会を開催した。市内9団体が参加し、観光地での先進事例を学び、参加した団体が自分たちの活動内容を報告したり、情報交換をするなどして交流を図った。今後、市原の歴史や自然の魅力を伝える観光ボランティアガイドの育成に力を入れ、その数を増やすことが目標だ。
 トロッコ列車が、いちはらアート×ミックス同様に、観光地としての市原市に前進する起爆剤となることは間違いない。今年、会社設立98周年、鉄道開業90周年を迎えた小湊鐡道。新たな鉄道事業として『観光トロッコ列車』の位置づけで展開していく。
 石川社長は、「里山は遺産でなく、未来遺産。里山は2010年のCOP10でSATOYAMAとローマ字表記され、世界語となった、人間と自然が調和して生きる理想の環境。これからの時代、里山がトレンドになる。遺産の資産化で、ローカルはモーカル。平成の里おこしに取り組み、中房総のブランド化を目指したい」と話した上で、「沿線の各駅で降りたお客様には、サイクリングや川遊び、散策やウオーキング等、同時に農業体験など里山ならではの体験も楽しんでもらい、周囲にもトロッコ列車の観光効果を波及させたい。東京湾アクアラインや首都圏中央連絡自動車道の開通で、首都圏から市原市への交通アクセスが良くなった。気軽に日帰りで訪れることができる里山を都会の生活に疲れた人たちの癒しの場、五感を解放するリフレッシュゾーンにしたい」と熱く語る。

問合せ 小湊鐡道
TEL 0436・21・6771

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