九十九里平野を潤す大事業を知る

両総用水の路ウォーク

 両総用水は、かつて目ぼしい水源がなく日照りに苦しんでいた九十九里平野とたびたび洪水に見舞われていた香取市佐原地区の水問題を解決するため敷設された農業用水路だ。佐原地区で利根川の水を汲み上げ、千葉県北東部と九十九里平野の14市町村に水を送り一宮川に至る。長さ約80キロメートル、千葉県で一番長く大きい用水路の壮大な事業は、昭和18年に着工され、戦争や数々の難題を乗り越え、昭和40年に完成した。その水は米など多くの農産物の生産を支え、豊かな自然環境を育んでいる。
 6月4日、『第6回両総用水の路ウォーク 東金から山武』(約15キロコース)が開催された。参加者135名が集合したのは求名駅から徒歩10分の城西国際大学高円宮殿下記念スポーツパーク。主催するNPO法人千葉県ウオーキング協会会員と共催の水土里ネット両総などの職員に導かれ、列を作って出発した。
 国道126号線を渡り、並行に走る県道119号線につながる車道をしばらく歩くと石の門柱が建つ場所に着く。通りからは見えないが、大きな水音が聞こえる方向に、昭和30年に完成した『東金円筒分水口』がある。直径7、8メートルはあるコンクリート製の農業用水施設。サイホンの原理で中心から吹き上がった水を等分に各水路に流す仕組みになっており、水量を目で確認できるので公平だと農業関係者に安心感を与えてきたという。千葉県立農業大学校での休憩時に、円筒分水口を初めて見た20代の参加者は「今も使用されているのに感動します」と先人の知恵に感心していた。
 坂を下り進むと、広い水田の上をまたぐように架かる農業用水専用の公平水路橋が見えてくる。はじめは橋上を水が流れる開水路だったが、平成5年からの老朽化した施設の更新事業によりパイプが取り付けられ水の流れは見えない。長さ305メートルの橋に沿って歩くと、水路のスケールの大きさを実感する。他の開水路も同様にパイプとなり、外からは見えないそうだ。「米作期の4月から8月は橋を水土里ネット両総が毎日点検しています。安全な水からおいしいお米ができるのです」と職員の滝口さんは胸を張って話す。20分ほど歩き、吸水池やポンプ室のある両総用水第3揚水機場に到着。同ネット提供の豚汁とともに昼食を取り、両総用水の全体像について説明を聞いた。
 午後はイチゴハウスの間を抜け、東金ダムに向かう。長い列を作って進んでいると、家族と一緒に後方を歩いていた小学生が先頭に追い付いてきた。参加者は高齢者が目立つが、日頃からウオーキングを楽しむ人も多く、疲れた様子はない。毎年異なるコースを歩くのでリピーターは埼玉、船橋、柏などからも来る。道すがら、水土里ネット両総の職員は「ここはひび割れているな」と田んぼの水を眺め、協会副会長の平野さんは「同じ時間と距離を健康的に歩くには姿勢正しく」と歩くコツを教え進んだ。
 里山風景を楽しむうちに房総導水路にある東金ダムに到着。説明板の前でダムを管理する水資源機構の職員が解説の音声を流す。房総導水路は昭和46年に着工され、昭和52年に一部通水を開始し、平成17年に完成した。利根川の水を引き、横芝光町付近までは両総用水と共用の施設を使う。そこから両総用水の北側を流れ、九十九里、南房総、千葉市とその周辺の地域への水道用水と京葉臨海工業地帯に工業用水を供給する。途中に東金ダムと長柄ダムがある。
 ダム東岸を歩くと、時折、水の浄化のため、ダム湖面から湖底の水が噴き出す。それを見て「謎の生物かも」などと冗談を言っているとヘビに遭遇した。円山公園を抜け、日枝神社西側の鳥居から入り、社殿から樹齢350年以上ある杉が並ぶ表参道を通る。桜の名所八鶴湖を右手に見て進むとゴールの両総土地改良区事務所。職員らが出迎え、お土産の地元農産物を手渡す。記念にジグゾーパズルをもらった小学4年生の男の子は「楽しかった。円筒分水口はどうやって水が出るのか不思議だった」と元気に帰路の東金駅に向かった。
 両総用水については水土里ネット両総のホームページ、歴史については(一社)農業農村整備情報総合センターによる『6千年の宿命に挑んだ用水 両総用水のあらまし』(映像サービスYou Tubeより)に詳しい。

問合せ 千葉県ウオーキング協会
TEL 043・255・0141
問合せ 水土里ネット両総
TEL 0475・52・3145

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