今津村の小さな墓

 「当時の今津漁民たちの優しさと思いやりに心を打たれます」と話すのは文化財を研究する大学教員、今津朝山に住む小関勇次さん(61)。旧今津朝山漁業協同組合跡地裏に草陰に隠れて無縁墓碑がポツンと立つ。目の前を流れる川は埋め立て前まで海岸で、今津川が流れ込む河口が近くにある。
 「普通、共同墓地に入れない身元不明人は、石積みや土盛りに無縁を記した簡素な墓碑で済ませますが、村人が浄財を集め建立し、作った目的や寄進者を記した墓は珍しい」と小関さんは手彫りの跡が残る墓石を指す。墓碑には『海間流死 今津村 上達法身下及六道(じょうたつほっしん げぎゅうりくどう) 有無両縁 念佛講中』とある。「この浜に打ち上げられた亡骸へ 天国に至るか地獄に落ちたかわからぬ方 縁の有る方も無い方も 念仏講一同より」という意味だそうだ。側面には江戸後期徳川家斉の時代『文化二年(1805)丑年四月中旬』の銘がある。漁協は海苔養殖が始まった頃にできたので、墓はそれよりずっと前からあったことになる。
 「小学校3年生まではこのあたりで海苔採り舟に乗って遊びました。かつて年寄りが墓を念仏講で拝み、無縁様と呼んでいました。あの頃は何のことかわからなかったなあ」と子ども時代を思い起こすようにしみじみと語る。
 埋め立て前の今津朝山は海で生計を立てる半農半漁の住民がほとんど。小関さんは「板子一枚下は地獄という諺があるように、漁師たちは溺死者を他人事と思えなかったのでしょうね」と墓に葬られた死者を慰めるように手を合わせた。

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