- Home
- 外房版, 市原版, シティライフ掲載記事
- 植物にパワーをもらい、共に生き、その魂を描く
植物にパワーをもらい、共に生き、その魂を描く
- 2017/7/13
- 外房版, 市原版, シティライフ掲載記事
画家 澤登 千代子さん
東金市二又にある『ボタニカル ギャラリー』で自身の作品を展示している澤登千代子さん(69)。ボタニカルとは、花や葉だけでなく根までを詳細に描き、子ども達に教えるための教科書にも使われる植物画のことで、ボタニカルアートと呼ばれている。
澤登さんがボタニカルアートを描き始めたのは50歳の時。それまではアートフラワーデザイナーとして緑の博覧会や他イベント、ホテルへの出品、フラワー教室の講師など多方面で活躍していた。同時に、七宝焼き作家として数々のアクセサリーや額を焼くことも。その中で千葉県の形をモチーフにして県花の菜の花を焼きつけたブローチは、特許庁で意匠登録されているという。
「澤登なら任せられる、と信じて仕事を発注してくれるのはとても有難いこと。でも、長年の経営でアイディアを出すことに疲れ果ててしまったんですね。一度人生をリセットしよう!」と始めたのが、ボタニカルアートだ った。
小さい頃から画家になることを夢見ていたことも理由のひとつで、時間に追われない生活の解放感、多額の費用を用いずに一人で楽しめる魅力、すべてが澤登さんの心を豊かにした。「100枚描いてみて、100枚目をNHK美術展に応募してみたんです。入選だったんですが、冊子に掲載されて嬉しかったですね」。アートフラワーと七宝焼きで培った色彩を見抜く力が大きく役立ったと言っても過言ではない。
澤登さんは、自然と人のイメージしている色のトーンが判断できるようになっていた。音楽でいう絶対音感、ならぬ絶対色彩というところだろうか。結果、国立科学博物館主催の『植物画展』や都立美術館の『清興展』、東京ドームで開催される『世界らん展』など数多くの展覧会で入賞してきた。
題材はアケビやカラスウリなどよく知っているものやハクウンボクなど珍しい種類まで様々。19年間で描いたものは数え切れないが、澤登さんは特に蔓や木の幹を描くことが好きだという。「一番エネルギーのある午前中に集中して描きます。実際の植物を手元で見て描くので、明日でいいや、は通用しないんです。枯れていきますから」という難しさ。
一瞬一瞬を逃すことなく、デッサンを重ねる。それでも描いている途中に枯れてしまうと、多くの植物を栽培している友人に連絡して調達してもらうことさえある。そこまでして旬な姿を描くには理由がある。ボタニカルアートの展覧会では植物学者も審査員に加わることで、より正確な植物の姿が求められるのだ。幹に生えるカビの量や枝の伸びる向きなど、ほんの些細な一部が審査に影響する。
そんなボタニカルアートの掟は、画用紙の背景に色をつけないこと。澤登さんは自身で構図を考え、絶妙なバランスで描く。新緑の緑に寄り添う花々の下に、散っていくように流れる枯葉たち。浮き出るような木々を描くのは、「植物を通して画に人生を込めたい」という想いから。芽吹き、花を咲かせ、実をつけて、枯れる。植物の一生は人間と同じように時とともに流れ、どこか儚さが残る。
描いた画は生きている子ども達のように大切で、ギャラリーには1階および2階の壁、棚、イーゼルなどに惜しむことなく並べられているが、一切販売していない。「大体3、4枚を並行して描き、長いと2年かかることもあります。辛いのは、何を描こうか分からなくなった時ですね。初めは目指している賞がとれないと落ち込むこともありましたが、今はなくなりました」と笑う澤登さんの顔は、自信に満ちている。
今後も描き続けることに変わりはない。だが、「最近、あと1年くらいで画のリセットをしてもいいかなと思うんです。自分の中で区切りをつけて満足できたら、いっそタブーなものを描きたいですね。以前、仏絵を描いていた時もあるんですが、ボタニカルと仏絵の融合なんて面白いですよ」とまだまだ目標はつきないようだ。植物が太陽の光に向かってまっすぐと伸びていくように、澤登さんのボタニカルアートもまだまだ成長し続けていくことだろう。
ギャラリー 日曜日のみ10~16時。入場無料。
東金市二又47の2
問合せ 澤登さん
TEL 080・1127・6864