「昔から伝えられてきた木工指物技術を受け継ぎ、新たな現代指物家具を残していきたい」

「昔から伝えられてきた木工指物技術を受け継ぎ、新たな現代指物家具を残していきたい」
駿河指物家具職人 大谷 友彬さん

 徳川家康が居城駿府城や家光が浅間神社を造営する際に、各地から名工を集めたことから木工産業が発達したといわれる静岡。日本独特の指金(物差し)を用いて作られる指物。駿河指物といわれる静岡の木工指物も浅間神社造営にあたった職人達が技術を広めたと伝えられている。この駿河指物の技法で、様々な家具やインテリアを製作する大谷友彬さん(45)は、長生郡長南町で大谷家具製作所を営んでいる。
 大谷さんは千葉市で生まれ育ち、高校卒業後、父親の営む会社で働いてきたが、20代半ばを過ぎ「長男なので、このまま家業を継いでいくか、自分のやりたいことをやってみるか」と悩んだ。以前からインテリアに関心が高く、ショップ巡りや家具を見ることが大好きだった。家具に関わる仕事がしたいと思っていた。30歳を前に、仕事として取り組むなら早い方がいいと退職し、28歳の春、職業訓練校に入校して1年間木工を学んだ。その後、茨城の椅子メーカーに就職。「量産モノだから自分の作品は作れなかった。2年半ほど働き、家具産地の静岡に行き木工所に弟子入りを。それから親方(静岡伝統工芸技術秀師の青野熊吉さん)に師事した」
 一般的な木工家具でなく、指物家具を作る道に進んだのは、「最終的には独立したいと考えていたので、現代の流れ作業のような家具づくりではなくて、一から十まで自分でできる職人になりたかったから。たまたま静岡で伝統的な技法で家具作りをしている方がいると知り、自分もそういう職人になりたいと親方のもとへ行った。指物は日本の伝統的な家具製作技術なので、日本の気候風土に合った作り方。丈夫で長く使っていただくためには最適な技法だと思った。今の合理的な作り方と違い、手間のかかることは多いけれど、丈夫でありながら繊細なかんじにと親方から教え込まれ、それに自分の表現方法で品質の高い技術を身につければ、お客様のオーダーに高いレベルで応えられると思った」と熱く語る。数年後には故郷千葉市で初の個展を開き、静岡で独立し工房を設立。以降、デパートやギャラリーでも個展開催、静岡伝統産業工芸展でたびたび受賞も。
 そうして、2011年秋に静岡から長南町に工房を移した。「ここは、あくまで生活、製作、そして家具を見てもらう拠点としてのつもりだった。千葉市や都内、横浜で展示会を開き、購入を検討される方に、ここへきていただくと。静岡よりこちらの方が東京方面から来ていただくには近いので」。しかし、実際オープンしてみると「ビックリしました。8割以上のお客様が地元長生郡市と近隣の市原市の方でした」と嬉しそうに話す。インテリアコーディネーターで営業を担当する奥様の悦子さん(44)も「町の人が小さなインテリア木工品を、お使いモノ(プレゼント)にと、ちょくちょく買い物に立ち寄ってくださるのも、とても嬉しいです」言葉を添える。他、洒落た木製のゴミ箱やフォトフレーム、一輪挿し、ティッシュボックスなど小物も揃えている。
 多くのお客様が購入するのは、今、家具業界では売れないといわれる箪笥。「お買い求めいただいた方の大半はシニア層。夫婦2人の暮らしになり、家具を自分たちの好きなもので揃えたいというパターン。ベッドやダイニングセットの人気は高く、箪笥に関してはお孫さんが生まれるのでベビー箪笥をプレゼントにという方も大勢いらっしゃる」と大谷さん。フル・セミオーダー家具といっても、なかなか自分の希望する形を伝えるのは難しい。それで、工房2階に展示スペース『家具+ギャラリー』を昨春オープン。ショールームのような開放感あふれる雰囲気のなか、サンプル的に置かれた家具を見て、「ここが、こんなふうなものがいい」等、具体的な要望を細かく聞き、オーダーにしっかり応えたいと考えてのこと。同時に、お世話になった静岡の職人たちの匠の技を知ってもらいたい、伝統工芸を守りたいとの想いから、定期的に作品展も開催している。伝統家具は敷居が高いと感じる人には、作品展を見に来た際に、現物を見て触れてみてもらうきっかけにもなっている。
次回の作品展は、『にっぽんの粋な履物』7月4日(木)から9日(火)11時から17時(入場無料)。駿河の工芸作家による塗下駄と張下駄が約80点展示販売される。毎年、材木を静岡まで買い付けに行き、丸太を選木し製材して年月をかけて乾燥させる大谷さん。「生活の道具として愛され、末長く使い続けてもらえるように、心を込めた手仕事で製作していきたい」と言う。粋で夏らしい下駄と大谷さんのモダンな家具とのコラボ展示を楽しみに行かれては。

問合せ 大谷家具製作所(長生郡長南町1280の1  国道409号沿いJA長南支所向かい)
TEL 0475・47・3530

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ

今週のシティライフ掲載記事

  1. 【写真】第1展示室  人々の暮らしを様々な面で支えている人工衛星。ロケットで打ち上げられた人工衛星は地球の周回軌道に投入さ…
  2. 【写真】教室の講師と子どもたち  JR浜野駅前と五井駅前でダンススタジオを経営する堀切徳彦さんは、ダンス仲間にはNALUの…
  3.  市原市不入の市原湖畔美術館にて、企画展『レイクサイドスペシフィック!─夏休みの美術館観察』が7月20日(土)に開幕する。同館は1995年竣…
  4. 【写真】長沼結子さん(中央)と信啓さん(右) 『ちょうなん西小カフェ』は、長生郡長南町の100年以上続いた小学校の廃校をリ…
  5.  沢沿いを歩いていたら、枯れ木にイヌセンボンタケがびっしりと出ていました。傘の大きさは1センチほどの小さなキノコです。イヌと名の付くものは人…
  6. 『道の駅グリーンファーム館山』は、館山市が掲げる地域振興策『食のまちづくり』の拠点施設として今年2月にオープン。温暖な気候と豊かな自然に恵…
  7.  睦沢町在住の風景写真家・清野彰さん写真展『自然の彩り&アートの世界』が、7月16日(火)~31日(水)、つるまい美術館(市原市鶴舞)にて開…
  8.  子育て中の悩みは尽きないものですが、漠然と考えている悩みでも、種類別にしてみると頭の整理ができて、少し楽になるかもしれません。まずは、悩み…
  9. シティライフ編集室では、公式Instagramを開設しています。 千葉県内、市原、茂原、東金、長生、夷隅等、中房総エリアを中心に長年地域に…

ピックアップ記事

  1. 【写真】第1展示室  人々の暮らしを様々な面で支えている人工衛星。ロケットで打ち上げられた人工衛星は地球の周回軌道に投入さ…

スタッフブログ

ページ上部へ戻る