アートとアメ車とサーフカルチャー

アートとアメ車とサーフカルチャー
プロサーファー 市東 重明さん

「ビーチで見つけた人がおもしろいと感じ、ほんの少し心が優しくなってもらえたらいい」と話したのはプロサーファー市東重明さん(37)。カラフルに彩色し、スマイルマークを描いた貝殻を九十九里町片貝の砂浜にまいた。人の心を動かす小さなアートプロジェクトだ。「海外でサーフィンは単なるスポーツではなく文化として受け入れられている。ファッション、音楽やアートがサーフシーンにリンクし、上手い下手は関係なく誰もが自分流に楽しんでいる」と自らもアーティストとして活躍する。端正なルックスからはイメージしにくい怪しげでナンセンスな作風は「自分のダークな部分を吐き出している」。その中にもポップでキュートな一面があるのは「作品づくりは自分が自分らしくいられる大切な時間。ワクワクしながら描いている」からだろうか。子どものころは美術に触れる家庭環境ではなかった。でもノートや教科書は落書きだらけ。型にはめられてこなかったからこそ自由。手法は平面から立体、映像にいたるまでアイデアは尽きない。ボードのカスタムペイントも市東流を貫く。
 東金市出身。小中学生のころはローラースケートやスケートボードがブーム。今のようにスケートパークがなかったので道路で遊んだ。15歳でサーフィンに出会い、車の免許を取るまでは8キロの道のりを自転車で片貝海岸の老舗サーフショップ『ラ・メール』まで通った。「ただ楽しかった」と当時を振り返る。「人の倍は通った」という海で生きたいと19歳からプロサーファーを目指した。22歳でプロテストに合格。思いどおり生きてきたようにみえるが、「歯がゆさや悔しさを抱えながらひたすら練習した」。プロになってからも国内外の大会を転戦する資金を稼ぐため夜間に掃除屋、土木業などのアルバイトを続けた。26歳でスポンサーがついたときには「これで練習環境が整ったと嬉しかった」そうだ。撮影や取材で世界各地に出かけ、日本にはない多様なサーフカルチャーに触れる機会がますます増えた。
 2012年5月、「競技会に飽きた人から週末サーファーまで技の優劣を競うのではなく楽しく波に乗れる」をコンセプトにしたサーフボードのオリジナルブランド『Lazy Boy Skill』を立ち上げた。「なまけものでいる技、頑張らない生き方もいいよということ」。ロゴはサインするときにいつも描いていた顔だ。同時にサーフショップ『LBS Gallery』を九十九里町にオープン。廃屋になっていた店を自分の手で改装した。隣家との境界にある5メートルほどの壁にはグラフィティライターによる店名が描かれている。入り口の内扉につけたドアノブはスケートボードのパーツ。店内は市東さんのテイストで選んだグッズや遊び心でいっぱい。カウンター上部の壁にペイントされた文字は『Style is everything』。「波に乗る姿、サーフィンに向き合う姿勢、ファッションやアイテムへのこだわり、生き様全てがカッコいいのがスタイルあるサーファー。スタイルこそ全てという意味」とまっすぐな視線を返し話した。
「サーフィンは出会った人の人生を変えてしまうほど魅力的。自然相手なので同じ波は二度とこない。うまく波に乗り、海と一体になれたときの感覚は爽快」。当然、撮影などの仕事がないときはほとんど海にいるし、若手サーファー育成、ビーチクリーンにも取り組む。波乗りに必要な瞬発力と柔軟性を培うためジムに通い、「自分と向き合いメンタル面も安定する」とヨガとサーフィンをコラボレーションした合宿も企画する。サーフィンをツールに新たな文化圏へも軽々と飛び込む。渋谷や横浜で行われるさまざまなファッションと文化が混在する展示会に名を連ね、ライブハウスのイベントに出演。落語協会サーフィン部の顧問もする。いつもハッピーでいられる性格。「自分が楽しいかどうか」が基準。市東さんに憧れる若者へは「やりたいことがあったら、とりあえず行動してほしい」とのこと。
 今後は「マリンスポーツを中心としたライフスタイルを地元に根付かせたい。片貝海岸は365日海に入れる。サーフィンをやるために九十九里町に移住してくる人もいるほど。子どもたちにも教えてみたい」そうだ。お店のスタッフによると市東さんは「遊びの天才。何でもできて楽しんでしまう。面倒見がよく、いろいろアドバイスしてくれる」。頼りになる兄貴のような存在。所有するシボレー社製68年モデルのインパラに夢中。何をしてもスタイルがある。既成の枠を壊しながらもスマートに生きる自由人。

問合せ
info@lazyboyskill.com

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