流れる時代を写す絵はがき

~100年前の人が息づく企画展~

 12月23日(水)まで、いすみ市郷土資料館で開催されているのは『絵はがきの中の大正時代』企画展。ほぼ同じ時代を生きた、洋画家の藤田嗣治と世界探検家の菅野力夫、一宮町の旧寿屋本家で当時当主だった斎藤脩一の3人が各々『送った』『作った』『集めた』絵はがき約380点が展示されている。
 洋画家の藤田嗣治は、新婚間もない妻の登美子を日本に残して単身パリに留学。妻に現地の風俗や自身の暮らしの様子を伝えるため細かい文字でつづった手紙や多くの絵はがき。まるで自分に向けられている言葉のように錯覚してしまうほど愛情を感じられるそれらは、時を経て、1980年頃に登美子の実家のある市原市の石蔵で発見された。100通の手紙と100枚の絵はがき、写真約50枚の他にも押し花やパリの雑誌などが見つかったが、2人は第一次世界大戦という情勢もあって再会することはなかった。  同館の伊藤睦美さんは、「大正時代から100年という節目で、こんなにもたくさんの絵はがきが集まりました。直接つながりのない3人ですが、絵はがきを通して見えてくる出来事や風俗はまさに大正時代。人々の関心のありようが伝わって面白いですね」と熱く語る。
 江戸時代から続く一宮町の海鮮問屋当主である斎藤脩一は、県立千葉中学校時代から絵画好きで、漫画家の北沢楽天ら絵心のある友人たちとやり取りした手描きの絵はがきが残っている。その中、明治から昭和初期にかけて収集された258点が展示され、各々の絵柄の説明書きも添えられている。
 そして、伊藤さんが特に力を込めて話すのは『謎の世界探検家』菅野力夫である。大正から昭和初期にかけ、ほぼ単独で8回の海外探険旅行を敢行した菅野は現地で自身を撮影し絵はがきを作成、講演会などで販売した。マレーのジャングルやシベリアの氷原など様々な背景に存在感溢れるポーズで写る菅野の絵はがきは大好評で、探検旅行の詳報は連日新聞各紙を賑わせたとか。
 「破格でユニークな菅野のイメージが伝わるように、写真は大きさを揃えず、額にも入れませんでした。展示された85点の写真はアルバムをイメージしています」と話す伊藤さんは、細部にもこだわりを見せる。菅野のスペースには他2人のような細かな案内がない。それには、「会期中に余裕があれば、徐々に説明書きを加えたいのですが、写真全部の場所や撮影日を特定できていません。目を凝らしてみると色々な発見があるので、それぞれの興味で鑑賞していただけたら」という意図があるとか。
 ぜひ大正時代を覗きに行ってみては。12月23日までの間、祝日以外の月曜と11月4日、24日が休館。9時から16時半まで閲覧可能で、入館無料。

問合せ いすみ市郷土資料館
TEL 0470・86・3708

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