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身近な里山に貴重ないのちがたくさん! 千葉県いすみ環境と文化のさと【いすみ市】
- 2020/7/30
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- 外房
丘陵地と広がる水田は、緑も水も豊かな房総の里山を象徴する風景。いすみ市万木にある千葉県いすみ環境と文化のさとは、この身近な里山の自然や長年続いてきた暮らしを体験し学べる施設だ。平成4年、当時の環境省が全国4カ所に設置するとした『環境と文化のむら・さと』のひとつで、平成7年にオープンした。選定基準は「トンボ・ホタル等の小動物が生息する」「里山の緑、水辺環境等の身近な自然が、一定の広がりを持って残されている地域」で、ほかには山梨県八ヶ岳南麓、鹿児島県屋久島、秋田県五城目町が選ばれている。
自然と楽しくふれあう
中心施設のネイチャーセンターでは、様々な展示やイベントなどで、南房総地域の里山文化や自然を知り、体験できる。この地域に住む動植物は、鳥、ほ乳類、昆虫などの剥製や標本、模型、写真、さらには水槽の飼育展示で魚類や両生類などを紹介し、特徴などを学べる。近くの水路にはホタルもおり、その生態も模型等で分かりやすく解説。昔から使われてきた民具も多数あり、水田除草機、千歯こき、足踏み式脱こく機、縄ない機、むしろ織り機など、今では珍しい道具が並んでいる。スタッフは「校外学習の小学生などを対象に、昔の手仕事での米作りの一端を体験することに使われています。子どもたちはとても面白がります。年配の方は、懐かしい!と喜ばれる方もいます」と話す。
センターの周囲には、様々な環境と生き物を観察できるポイントとして、田畑、水路、雑木林、草地、湿地などが配置され、デイキャンプ場、ハス田もある。季節により様々な行事も開催しているが、今年は新型コロナウイルスの感染防止のため、野外が基本。毎年恒例の『さとの夏遊び』も同様で、水辺の生き物探検隊やザリガニ釣り、虫取り探検隊、竹馬を作ろうと種類を絞って、すべて小人数での実施となる。
「年間を通して、キャンセル待ちになる講座はいくつもあります。昆虫関連は近年人気が高いです。夏の夜の観察会、冬なら鳥の観察会、年末なら正月用のお飾り作りが特に好評です。お飾り作りには専用の品種の稲を、センターで育て材料にしています。貴重なものを気軽に作れると毎年参加する方もいます」とのこと。山に入って自分でツルをとり、カゴ作りをする講座もあるそうだ。なお、現在は感染予防対策として、通常は行っているザリガニ釣りの竿やバケツ、餌などの貸し出しは中止しており、持参した場合に限り楽しむことができる。
故郷の固有種、絶滅危惧種も
センターには多くの写真家が この地域の動植物を撮影しに訪れる。なかにはなかなかお目にかかれないオオタカやヤマドリなど、貴重な写真を提供してくれる人もいる。何十年と撮り続けている人によると、猛禽類に限らず、全体的に生息する動植物の種類は減っているという。それでも、多種多様な生きものがいる里山は、自然の豊かさを教えてくれる。今やいすみ市など南関東のごく一部の地域にしか生息が確認されていない天然記念物の淡水魚・ミヤコタナゴ、この地域の固有種・イスミスズカケやイスミナガゴミムシ。数年前と昨年には、兵庫県で放鳥された特別天然記念物・コウノトリもいすみ市に飛来した。取材の途中、車道の端には大型の鳥がおり、広げた翼の形で猛禽類だと分かったが、普通はなかなか間近では出会えない種類だったようだ。
「イスミスズカケは2009年に発見され、2013年に新種と発表されました。この地域にしか自生していない珍しい種で、地域固有種の発見です。センターでは故郷の花として育て展示。この花を見るためだけに来館した方もいました」とスタッフ。ミヤコタナゴも昔はたくさんいたと話す地域の年配の人も多いが、現在は個体数自体が激減しており、違法な捕獲を防ぐため生息地は公表しないようにしている。「自然は多様な生物が存在して成り立つ世界。身近な自然にどれだけたくさんの『いのち』があるのか、知ってもらうことが大切なのではと思っています」
今、里山の自然は、山や田、水路に人の手が入らなくなったことで、それまでいた生きものたちが住めない環境になっている。人間社会とバランスを取るために、今後ますます、生きものたちの世界を理解していくことが大事になってくるだろう。
●千葉県いすみ環境と文化のさとセンター
いすみ市万木2050
9〜16時半、7/21〜8/30は17時まで
月休館、祝日の場合は開館し翌日休館
tel.0470・86・5251
http://www.isumi-sato.com/
※感染防止の状況により、イベントは中止になる場合もあります