おかえりなさい ホキ美術館 水害を乗り越え リニューアルオープン 11月16日まで『森本草介展』 開催中【千葉市】

 昨秋の集中豪雨で作品・建物共に被災し、休館していたホキ美術館(千葉市緑区)が8月1日、約9カ月ぶりにリニューアルオープンした。新たなスタートに際し、「原点に還る」として、同館コレクション第1号『横になるポーズ』を描いた森本草介(1937-2015)の回顧展を11月16日まで開催している。

思いもかけない水害

森本草介《午後のくつろぎ》 2008年

 昨年10月25日、朝から降り続く激しい雨が道路を川のように流れ、美術館裏側のスロープから館内地下室に一気に流れ込んだ。それは緑豊かなこの地区で、予想もしていないことだった。地下2階のギャラリー・電気室は床上80センチまで浸水し、電気設備が故障。収蔵庫・事務室も同様で、100点余りの作品が水につかり、ほとんどの書類・図録などに被害が出た。水の勢いは鉄製のドアが曲がるほどだったという。
 水に濡れた絵は修復士の指導の下、直ちに処置が施された。額を外し、ジョウロで絵に水をかけて洗浄し、その後消毒・燻蒸(防虫処理)・修復の過程が必要だった。現在も修復中の作品が30点ほどあり、すべての作業が終了するにはさらに2~3年を要するとのことだ。館内では濡れた床と壁はすべて取り替え、書類は1枚1枚乾燥させて保管しなおすという作業が続いた。電気室を上階へ移設し、エレベーターの下層部分を取り換える大規模な工事も行った。「復旧作業は闘いの毎日でしたが、『また写実絵画を見に行きたい』と言う励ましの声が支えでした」と館長の保木博子さんは話す。

気品あふれる珠玉の作品の数々

森本草介《 牡丹》 1997年

 ホキ美術館は2010年11月、世界初の写実絵画専門美術館として開館。今年、10周年を迎える。それは、同館創設者の保木将夫さんが、日本を代表する写実画家・森本草介の1枚の作品と出会ったことから始まった。「初めて森本先生の絵を拝見した時、周りの作品がすべてグレーで、森本さんの作品だけが輝いて見えました。あの驚きと感動は忘れません。日本にこんなにすばらしい絵画があったのかと、静謐で気品ある作風に一目で心を奪われました」と保木将夫さんは語っている。今回の回顧展は、被災して修復中の2点を除く、同館所蔵34点の森本作品を同時に鑑賞することができる貴重な機会となっている。

保木博子館長

 婦人像の多くは背中から描かれ、森本さんは「モデルがどんな人なのか想像する楽しさを残したい」と語っていたという。風景画では、「水は人をやさしい穏やかな気持ちにさせる」とフランスの地方の水辺の風景を多く描いている。「生きていてよかったと思える絵を描きたい」と、作品のテーマは常に『生きる喜び』だった。
 保木博子さんは、「森本さんとは家族ぐるみのお付き合いでした。とてもやさしく、人の気持ちを汲み取ってくれる方でした。1日に8~9時間の作画作業の休憩には、ピアノでショパンを弾いていました」と人柄を偲ぶ。「ゴールドを基調とした色調に、部屋中にあふれるやさしさ、奥ゆかしさが作品の魅力です」。

次世代に寄せる期待

中西優多朗《次の音》 2019年

 館内では、40歳以下の新人写実画家を対象とする公募展の『第3回ホキ美術館大賞展』を同時に開催。入選作21点が展示されている。ホキ美術館大賞には京都市立芸術大学の中西優多朗さん『次の音』が選ばれた。2000年生まれの中西さんは、16歳で第2回ホキ美術館大賞に最年少で入選。その後も着実に力を伸ばし、今回の受賞となった。「写実的でありながらきわめて絵画的な絵画を描きたいと考えている」という作者が、未知なる未来への期待や不安を『次の音』として描いた作品だ。
 現在入館には、新型コロナウイルス対策のため事前予約が必要。ホームページか電話にて受け付ける。鑑賞には、入館チケットとイタリアンレストラン『はなう』のランチ・ミュージアムカフェのドリンクがセットになった『わくわくプラン』(1名4500円)も楽しい。同館チケットは当日何度でも出入りが自由で、鑑賞の合間に隣接する昭和の森を散策することもできる。開館時間は10時~17時半。火曜日休館。一般1830円、高校・大学生・65歳以上1320円、中学生910円、小学生以下無料。

●問合せ・入館予約:ホキ美術館 Tel. 043・205・1500
 千葉市緑区あすみが丘東3-15  https://www.hoki-museum.jp/
●本展招待券を5組10名様にプレゼント
 はがき、FAX、メールにて申込。郵便番号・住所・氏名・電話番号を明記の上、シティライフ編集室 ホキ美術館招待券係まで。9月11日必着。
 〒290の0056 市原市五井4874の1 FAX 0436・21・9142
 mail:kiji@cl-shop.com
 ※当選発表は招待券の発送をもってかえさせていただきます。

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ

今週のシティライフ掲載記事

  1. 【写真】第1展示室  人々の暮らしを様々な面で支えている人工衛星。ロケットで打ち上げられた人工衛星は地球の周回軌道に投入さ…
  2. 【写真】教室の講師と子どもたち  JR浜野駅前と五井駅前でダンススタジオを経営する堀切徳彦さんは、ダンス仲間にはNALUの…
  3.  市原市不入の市原湖畔美術館にて、企画展『レイクサイドスペシフィック!─夏休みの美術館観察』が7月20日(土)に開幕する。同館は1995年竣…
  4. 【写真】長沼結子さん(中央)と信啓さん(右) 『ちょうなん西小カフェ』は、長生郡長南町の100年以上続いた小学校の廃校をリ…
  5.  沢沿いを歩いていたら、枯れ木にイヌセンボンタケがびっしりと出ていました。傘の大きさは1センチほどの小さなキノコです。イヌと名の付くものは人…
  6. 『道の駅グリーンファーム館山』は、館山市が掲げる地域振興策『食のまちづくり』の拠点施設として今年2月にオープン。温暖な気候と豊かな自然に恵…
  7.  睦沢町在住の風景写真家・清野彰さん写真展『自然の彩り&アートの世界』が、7月16日(火)~31日(水)、つるまい美術館(市原市鶴舞)にて開…
  8.  子育て中の悩みは尽きないものですが、漠然と考えている悩みでも、種類別にしてみると頭の整理ができて、少し楽になるかもしれません。まずは、悩み…
  9. シティライフ編集室では、公式Instagramを開設しています。 千葉県内、市原、茂原、東金、長生、夷隅等、中房総エリアを中心に長年地域に…

ピックアップ記事

  1. 【写真】第1展示室  人々の暮らしを様々な面で支えている人工衛星。ロケットで打ち上げられた人工衛星は地球の周回軌道に投入さ…

スタッフブログ

ページ上部へ戻る