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道を究めて70年 凛として響く筝の音~生田流筝曲家 酒井雅邦(典彦) さん~【茂原市】
【写真】2022年、演奏する酒井さん
筝曲家の酒井雅邦(典彦)さんは、生田流正派大師範として『ことぶき会』を主宰する。卓越した演奏で日本国内に限らず国際舞台でも活躍し、温和な人柄で全国の弟子からの敬愛を集めてきた。現在も東京、大阪、茂原市を拠点に、演奏活動と後進の育成に奔走する。9月6日㈰には茂原市総合市民センターにて、ことぶき会主催の『浴衣会』、11月3日㈷には同東部台文化会館にて、酒井さんが会長を務める『茂原市三曲協会』主催の『三曲協会演奏会』が開催される(三曲とは筝、三味線、尺八の合奏のこと)。
筝の道を歩む
酒井さんは1943年千葉市に生まれ、茂原市で育つ。父が軍人の厳格な家庭で、5人姉弟の4番目で一人息子だった。中学1年のある日、妹の和子さんについて行った筝の教室にて、「こんなの俺だって弾ける」と言う酒井さんに、先生は「じゃあ、やってごらんなさい」。姉たちが稽古する筝を聴き、物心ついた頃には耳で覚えていたという酒井さんは、教室で初めからあまりに順調なので、すぐに古典の『六段の調べ』を弾くことになった。「古典は全くわからず」に終わりまで弾くと、先生は「よくできました」と一言。「そうでなければ嫌になっていた」と、酒井さんは思い返す。夏休みになり「練習すると上手く弾けることを理解」し、家で練習を重ねる。「それからは課題をすべて1回で仕上げました。当時よく先生のお弟子さんの代稽古の先生に『典彦ちゃんは、すぐ弾けちゃうから嫌だ』と言われたものです」
高校時代は自宅にある楽譜を独学で片っ端から練習した。演奏会にも出かけ、常にプロと比較していた。「好きというよりも、人に負けたくない。人よりも上手に弾きたいという気持ちが強かった」。進学した東京大学では『筝曲研究会』で活動。大学2年の3月、生田流正派の名取(芸名を名乗り活動する演奏家)の試験に全国首席で合格する。5か月後の8月には親師匠の片岡雅千寿さんが急逝し、家元の一声で多数の先輩を抜き、酒井さんが一門を引き継いだ。卒業後は金融関係に就職し、同時に『ことぶき会』を創設。平日は会社員、土日はレッスンという生活を10年続け、その後は筝一筋に。コンサートや講習で全国を巡り、国際イベントに招聘され国内外で演奏すること多数。筝曲の作曲も手掛け、その作品集としてCDアルバム『礫』等が発売されている。「お弟子さんがたくさんいるいい時代でした。東京、横浜、豊橋、名古屋、京都、大阪と、新幹線の主要駅に教室が連なっていて、1日に5カ所まわる日もありましたが、飛び回るのがうれしいくらい。健康で続けることができました」
『ことぶき会~筝の調べ2019~酒井雅邦(典彦)喜寿祝い』。
全国からプロの尺八奏者と門人等総勢130名が参加した
たくさんの弟子に囲まれて
2023年に傘寿を迎えた酒井さん。同10月には大阪・朝日生命ホールで、『第51回邦楽器によるコンサート~酒井雅邦(典彦)傘寿祝い~』が開催された。「これまで弾けなくて悔しいと思うことはあっても、嫌だと考えたことは一度もない。周りのお弟子さんやいろいろなことに恵まれて進んで来られました」と振り返る。現在の練習時間は多い日には6時間。「年を重ね、柔軟性を補うために練習しています。以前と比べ上手く弾けないところもあるが、明らかに上手く弾けるところもある」。上手とは「基本に加え、音楽的な感性かつ情感があること。テクニックだけ、情感だけはだめ。人間性全体も豊かでありたい。うったえるものがあると音自体にいろいろな表情がでる」と語る。
酒井さんが1番好きな曲は、宮城道雄作曲の『手事』だという。「実によくできた曲。演奏する人によって自由に個性が出せる。すごく難しいけど、弾き甲斐がある。それが弾ける間は演奏を続けようと思っています」。長いキャリアの思い出の一つとして、40代の頃、大阪市の使節としてイタリア・ミラノのスカラ座小劇場で演奏をした時のことを挙げる。客席からは「Virtuoso!(ビルトゥオーゾ)」(名手)との掛け声と大喝采。その時も『手事』を演奏していた。「スカラ座の支配人が気に入ってくれて、オペラ歌手デル・モナコのコンサートリハーサルを貴賓席で聴かせてもらったのはいい思い出です」
茂原市木崎の『光の館』では、個人・グループレッスン、研究会と、年に1度のコンサート(5月)を行う。水曜日のグループレッスンはいつも賑やか。「先生の音はすごくきれい」「体の不調で手が動かなくても『それでいい』と、お優しい」「筝の合奏はまるでオーケストラのようでとても楽しい」と会話は弾む。「みんな上手なんです。尺八のチームに助演すると必ず、『みなさんいつも楽しそうに弾いていますね』と言われます」と、酒井さん。今後については、「85才まで
は全国でコンサートの予定が入っています。それ以降は健康次第。弟子に小さい子も増えてきて、4才から大学生まで8人。長生きしなくちゃ」と顔をほころばせる。県内のレッスンは他に千葉市真砂コミュニティセンターと大多喜町公民館でも。コンサートなど、詳細は問合せを。
問合せ:光の館
茂原市木崎618の2
Tel.0475・22・4988
●演奏会 入場無料
・9/6㈰ 10時~
茂原市総合市民センター
ことぶき会『浴衣会』
・11/3㈷ 11時半~
茂原市東部台文化会館
茂原市三曲協会主催『三曲協会演奏会』
光の館でのグループレッスンにて。
前列・左から2番目が酒井さん