連載『i』/朝のシュート

文と絵 山口高弘

 青空がまぶしい平日の朝7時。僕はベランダで深呼吸をしていました。風が美味しい。春が来たな。室内を振り返ると、台所で果物を洗っている妻が見えます。いつもの朝の光景です。見慣れたような、まだ見慣れないような。
 結婚して賃貸マンションで暮らし始めて数か月。静かに時間が過ぎていて、仕事と家事を夫婦で黙々とこなす日々です。妻が料理を、僕が掃除と洗濯を担当していますが、おかげで僕は掃除好きに変わりました。すっきり綺麗になるのが、実に気持ち良いのです。
 僕は深呼吸を終えて室内に戻りました。よし、今日も掃除からスタートだ。まずは洗面台を磨いて蛇口をピカピカにし、次にリビングのテーブルを拭く。だんだん気分が乗ってきたので、鼻歌をふんふん歌いながらの作業です。テーブルにティッシュのかたまりを見つけたので、さっと丸めてポーンとごみ箱へ投げました。コツン!いい音だ、ナイスシュート!最後に浴室に行って、浴室乾燥機で夜の間に乾かしていた服を畳みました。万事快調、まさに完璧な朝です。
 朝食を終えて身支度を整え、玄関へ向かいました。妻を駅まで車で送るのです。すると妻が薬指を見て「あ」と言いました。「私、結婚指輪するの忘れた」妻は鞄の小袋から指輪を出そうとしましたが、中に指輪はありません。「おかしいな」お互い、コートを着ながら考え込んでしまいました。妻の通勤電車の時刻が迫っています。「思い出した!」と妻。
「昨日寝る前、指輪を水洗いしたのね。そのあとテーブルにティッシュを広げて、その上で指輪を乾かしてたの」嫌な予感がしました。テーブルの…ティッシュ?「朝、テーブルで見なかった?私の結婚指輪を置いた、ティッシュのかたまり」

☆山口高弘 1981年市原生まれ。
小学4年秋~1年半、毎週、千葉日報紙上で父の随筆イラストを担当し、本紙では97年3月~イラストを連載。

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